灰色の祓魔師

□将来の夢は、お花屋さんになる事です
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結局太腿の傷口は十五針縫い、その他打ち身も湿布を処方してもらったため、かなり良くなった。それでも体の節々は痛む。

だが、治療してもらう前とは雲泥の差で、これならもう少し動けるかなと心の中で呟く。

あともう一つの問題はコムイの言っていたプレゼントなのだが、聞かなかった事にすることもできた。しかし一応彼の言葉は聞いておいた方がいいだろう。

少しずつ休憩をしながら、最寄りの駅に近付く。どうやらここは木蓮の並木道のようで、たくさんの赤みがかった紫の花弁が舞っていた。

彩菜は出店で購入したリンゴを行儀が悪いと思いつつも、歩きながら一口かぶり付く。思い出してみれば昨日の夜からなにも口にしていなかったのだ。

「もう、お父さんの嘘吐き!!」

「仕事が終わらなかったんだよ。この後好きなクレープ買ってあげるから。」

「ちょっと!あなたはいつも甘やかしすぎなんですよ。」

「今日くらいはいいじゃないか。」

並木道の向こうから聞こえてきた、微笑ましい家族の会話。何気なくその方向へ視線をやれば、手に持っていたリンゴが手から滑り落ちる。

割れてしまったリンゴは土塗れになってしまい、もう食べられない代物になってしまった。

「ーーーっ、」

その声は風にかき消され、誰にも届かないかと思われたが、それでも男の顔は動き目が合った。

その瞬間、彩菜は痛む怪我を気にすることも無く、全速力で走る。

「はぁっ⋯!はぁっ⋯!」

どうして男はあんなに幸せそうに笑っているのだろう。

男と手を繋いでいたのは偶然か、彩菜に声をかけ、病院まで連れて行ってくれた少女で。あの子から語られた父親の姿と、自分の知っている男の姿はどう逆立ちしても同じ人物には当てはまることがない。

ただ純粋に知りたいだけだった気持ちは、今までにないほどドロドロとしていて、一人で消化しきれないモノになっていく。

「ゆうっ、くんっ⋯!」

ーーー会いたい。

「ゆぅくんっ⋯!」

ーーー今すぐ抱きしめてほしい。

頭の中からは、コムイに言われた事がすっかりと抜け落ちてしまう。駅とは真逆の方向へ体が動いていた。

「ーーー彩菜!」

聞き慣れた声が、自分の名前を呼んでいる。そちらへ振り向けば息を乱した会いたかった人がいて。

「ゆぅっ⋯!」

走っていた止め、その瞬間に神田の腕の中に強く閉じ込められる。身長差も相まって銀の装飾が顔に当たってしまったが、あまり気にならない。

「彩菜っ、お前っ⋯!」


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