灰色の祓魔師

□将来の夢は、お花屋さんになる事です
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十五体前後であれば、殲滅自体に時間はあまりかからないだろう。むしろ移動時間の方が長い。

そう思っていたのだが、やけにコムイの顔が真剣で、僅かにそれが引っかかる。

「なに?AKUMA以外にもまだあるの?ロシアのブローカーの一件は、もう解決してるんでしょ?」

「勿論!そうなんだけど!そっちじゃなくて⋯。」

言葉を濁すコムイに本当に珍しいな、と思いながらリーバーの顔を見てみれば。すぐさま視線を逸らされ、本当になにがあるんだと首を傾げる。

「ーーー彩菜ちゃんに頼まれていた一件、見つかったよ。」

「え⋯?」

その言葉に大きく目を見開き、持っていた資料がくしゃりと音を立てて歪む。

彩菜から頼まれていた一件と言えば、ほぼ生き別れ状態になっていた父親の捜索だ。

だがその男は、死ぬ寸前まで暴力を奮い、彩菜の母を殺した男でもある。

偶然近くを通りかかったクラウド元帥が、寄生型イノセンスに適合していた彩菜を保護し、そのまま黒の教団に所属することになったのだ。

もしあそこを通りかからなければ自分は今ここにいないだろう。生きている事もなかっただろう。

恨んでいるのかと言われてもわからない。あの時に殴られていなければ、クラウド元帥には拾われず、神田とも会うこともなかった。仲間と出会うこともなかった。

それでもただ気になっているのだ。今あの男がどんな生活をしているのか。それを知らなければずっと心の中に釘が刺さっているような感覚で。

「場所はその資料の近くにある街だよ。どうする?会うも会わないも、彩菜ちゃん次第。」

「私は⋯、このまま自分の気持ちをうやむやにして前に進みたくないから。」

「うん。そっか。」

困ったかのように、それでも優しく笑って背中を押してくれる彼は。本物の兄のようだ。





「うっ⋯たたぁ⋯久々に、しくじっちゃった⋯。」

首に赤いチョーカーを結びイノセンスを封じ込めた。ズキズキと痛む太腿を庇いながらその場をあとにする。

血とオイルの匂いが周囲に充満し、鼻が鈍っていた。

AKUMAからの斬撃を避けたまではよかったのだが、きっとあれは衝撃波での攻撃が本当の狙いだったのだろう。ぱっくりと割れてしまっている太腿からは血が止まらない。

これではあの男を探す前にまず、病院に行かなくてはいけない、と、報告する電話機を探す片手間に歩き回るが。まず先に体力の限界が来てしまい、ベンチに一度腰を下ろした。

持っていたタオルで簡単に止血をしたが、すぐに新しい血が滲む。この出血の仕方は縫わなくてはいけないだろう。

自分のイノセンスは自分に対して使えない 。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「ーーーっ、?」

視線を動かせば金髪の綺麗な髪、だが瞳は黒く、顔立ちはかなり幼く見えた。


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