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□形無き物。
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昨夜の雪はうっすらと積もり、冬の空気を更に冷やしていた。
そんな中、振るう槍から空を斬る音がする。
「幸村様、また朝餉の時刻は過ぎてしまいましたよ。」
「あぁ、マナ殿。そうでしたか。」
額から流れる汗を拭いながら返事をする貴方は今日も眩しい。
「お腹も減る頃と思いまして、握り飯をお持ちしました。」
「ははは。これはかたじけない。」
「朝餉の時間もお忘れになって鍛錬とは幸村様らしいです。」
つられてクスクスと笑った。
二人で井戸縁に腰掛け、幸村は握り飯を頬張る。
「女子は身体を冷やしてはなりませぬ。」と言って
積もった雪を払いのけてから、まだ使っていないと言っていた手拭いを敷いて私の席を作ってくれた。
ちょっとした心遣いにも胸が高鳴ってしまう。
きっと貴方は誰にでも優しいのでしょうけれど……
朝餉の時間も忘れてしまう位なのだから
きっと今日が何の日かもお忘れでしょうね。