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□隣人の猫
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図書館の外に出ると
来たのが遅かったせいか
辺りはもう若干薄暗くなっていた。

帰ろう、と図書館の門を出たその時
グイッ!と誰かに手を引かれて
一瞬グラリと自分の体が揺れた。


「オイ、島崎〜」

「金、貸してくんねぇ?」

「…西島くん、綾部くん」


手を引っ張った犯人は
クラスメイトの西島くん。

その横には
西島とよくいる綾部くんがいた。

2人はニタニタと
笑いながら私を見ている。

正直、関わりたくないな
そう思っていた2人だった。

元々人嫌いの私が
関わりたくないなんて
よほどの人達なんだと自分でも思う。


「なぁ、俺らこれから遊びに行くんだけどよぉ」

「…だから、何なんですか」

「だからぁ〜金貸してくれって言ってんだろ?」

「…嫌ですけど」

「嫌ですけど、じゃねぇーんだよ! 口答えしてんじゃねーぞ!このアマが!!」

「…!」


怒りまかせの拳が
私に向かって飛んでくる。

ヤダ、怖い!

せめてもの思いで
カバンで顔を隠した、が


「…………?」


あれ、痛くない?
というか、当たっていない…。

恐る恐る顔を上げると


「……!あなたは!」

「さっきはありがとうな?」


目の前でさっきの彼女が
私を庇うようにして
仁王立ちしていた。

突如の展開に西島くんたちもビビったのかそれ以上攻撃を
仕掛けてはこなかった。


「な、何なんだよお前」

「と、突然現れやがって…!」

「……さっさと去れ、これ以上手ぇ出したら…」


彼女が睨みつけると共に
「ヒィッ!」と
声をあげた彼らは
青白い顔をして走り去っていった。

誰でも怖がる彼らを睨むだけで…
彼女は一体何者なんだろうか?

そんな思いをめぐらせていると
クルリと振り返った彼女と
バッチリ目があう。


「また、余計なお世話やったかな?」

「え、あ、全然……あっ!頬!」

「ん?」

「頬!ぶたれたでしょ!?大丈………」


おかしい。

彼女は確実に殴られたはずなのに
腫れているどころか
傷ひとつ残っていない。

言葉をなくしてしまった私に


「とりあえず、帰ろうか? ここにいたら暗くなるだけやし…」

「え……あ………う、ん……」


何故か同じ帰り道を歩いて行くことになり無言のまま2人並んで家まで帰る。


「……あの、家こっちなんですか?」

「うん、同じ」


私が角を曲がると、彼女も同じく曲がった。

私が坂を登ると、彼女も同じように登る。

そして……


「つ、ついてこないでください…」

「いや、そんなん言われても…」

「何なんですか、ストーカーですか?」

「ちゃうちゃう、隣なんよ」

「…へ?」


彼女は私の家の横で止まり
隣の部屋のドアを開けて

微笑んだ。


「お隣に引っ越してきました。 "横山由依"です。今日からよろしくお願いします」


そう、彼女が隣人となったのは
この日からだった。

今考えれば全ての出来事のキッカケは
ここから
始まっていたのかもしれない………。
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