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□海水が染みて
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素足で砂浜を歩くのは
何年ぶりだろう。

子供の頃海水浴に来たぶりか、それとも前に珠理奈ちゃんと遊びに来た時ぶりか。覚えてないはないけれど、久しぶりなのは確かだった。

「ねぇ、冷たくないの」

そう声をかけてくる彼女は砂浜に1人体育座りで防寒対策バッチリなコートに包まれながら目を細めて私を見ていた。

「冷たいにきまっとるやろ」

「12月の海に入る方がどうかしてるんだよ…」

呆れた顔でため息をつかれる。私は目線をそらして冷たい海水の中ゆっくり、ゆっくりと進んでいく。冷たい、足先が凍えている。けれど私の足は進むことを一向にやめなかった。いや、やめれなかったの方が正しいのかもしれない。ここで進むことをやめてしまったら、私はきっと………。

「由依、ねぇ、由依!」

「……っあ、ごめん。何?」

「…こっち、見てくれないの」

「…それ、は」

振り返ることは簡単だった。この足を止めて、彼女の方を見るのは容易いことだったけど。

「…由依」

「ぱるる…なんで、来たん」

冷たかった背中に暖かな温もりが伝わってきた。アレだけ人の事を信じられないという目で見ていた彼女の足が、海水につかっている。

「風邪、ひくで」

「…由依は」

「?」

耳元で囁かれるその聞き慣れた声に、少しゾワゾワする。後ろから肩に頭をのせられる。肌に触れた髪の毛がくすぐったい。

「由依は、私の卒業、寂しい?」

「…」

あえてずっとぱるるが聞いてこなかったその質問、私も意識的に言わないようにしていたその言葉になんて返せば正しい答えになるのか数秒考えてみたけど答えなんてある訳もなく。ただ、私を抱きしめる彼女の腕にちからがこもるだけで。

「…それを聞いて、どうなるん」

「…私の自己満足」

「…ふっ、そうか」

彼女らしい答えに素で笑ってしまう。

「なら…」

ようやく振り返った私は彼女の肩に同じ様に頭をのせて、聞こえるか聞こえないかのか細い声を絞り出す。










「…………………寂しい」










あぁ、やっと彼女に
彼女の卒業と向き合うことが出来た。

「……けど、ぱるるが幸せなら」

もう、なんでもいいと思った。

AKBでも、女優でも
彼女の幸せな未来が
卒業の先にあるのなら。

たとえその未来に
私が、いなかったとしても……。

「……ありがとう、由依」

12月の海水は
私たちの足を凍らせて
しばらく、そこから動けなかった…。


Fin.
 

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