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□ランチタイム
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風早恭子は迷っていた。

一度選択を間違えれば
自分の性格上あとで
ズルズル後悔するであろう
この決断に
恭子はただ頭を悩ませている。

普段ならパッと
決められるはずなのに
今日は何だか本調子ではないらしい。

もうかれこれ悩み始めてから
数十分が経過しようとしていた。

しかし、早くしないと
時間は待ってはくれない。

タイムリミットまで残り15分…

「………カレーだな」

目の前のカレーと
ラーメンの食品サンプルを見比べた
恭子はうんと頷きながら
そう決断した。

それと同時にお店に入ると
店員の案内で席に座り
カレーを注文した。

一度決めると何があっても
考えを変えない恭子にとって
最初の選択さえ終わってしまえば
後は頼んで食すのみである。

お昼休み終了まで残り13分。

どうにか食べ終えて戻ることが
出来そうだと恭子は一息つく。

いつもは出前をとっているが
今日に限ってお気に入りの店が
私情により休みだと聞き

他の出前屋を頼むのも何だか
申し訳ない気持ちになり

せっかくだからと
周りの皆からに押され

恭子は今こうして
外に食べに出てきたのだった。

「はい、お待たせ〜カレーね」

「わ、美味しそう」

「熱いから気をつけて食べなさいね〜」

カレーを運んできてくれた
おばさんにそう言われながら
私はスプーンを口に運んでいた。

うん、美味しい。

予想通り、いつもの出前と
少し似た古いお店の
あたたかい味がする。

都会は洒落た店が沢山並んでいるが
恭子はどちらかというと

こういう定食屋のような
古びた年季のある店の方が
人の温もりが感じられて好きだった。

熱いカレーをモグモグと
口に運びながらスマホに目を落とす。

残り10分、急がなくちゃ。

「あれ、アンタ…風早さんやないですか」

「え…あ、横山さん」

目線をあげると
そこには
婦警の横山由依が
財布を手に持って立っていた。

私服姿で、大人らしい
落ち着きのある色で
シンプルにまとめられている。

「珍しいですね、風早さんがこんなところでお昼食べてるなんて」

「今日はたまたま…横山さんはいつもここで?」

「お気に入りの店なんですよね〜大体はここでお昼食べますかね」

由依はそう言うとここいいですか?
と目で席を示した。

恭子はモグモグしながら頷いた。

「カレーですかぁ、いいですね。うちもそれにしようかなぁ〜」

「ラーメンもいいですよ〜、迷ったけどこっちにしちゃいました」

「そんなら…うちがラーメン頼むんで、その残りの半分くれません?」

「え、でも食べかけですし…」

「ええって、気にしいひん。風早さんは気にする人?ならやめとくけど」

首を横にふるとならええよな
と由依は店員を呼んだ。

たまに警視庁内で
顔を合わせるくらいなのに

何でこんなに
近づいてくるんだろうかと

恭子は水を飲みながら思っていた。

しばらくすると
ラーメンがテーブルに運ばれてきて
恭子の残りのカレーを由依が

由依のラーメンを
恭子が半分食べることになった。

あんなに迷ったのに
結局どちらも食べれると
分かっていたらもっとゆっくり
食事が出来ていたのになと
恭子はスマホを見ながら思う。

後5分だ。

「すいません、私もうそろそろ時間なので」

「あ、そうなん?なら言っといてくれたら良かったんに〜…まだラーメンそんな食べてへんやんなぁ?」

「あ、でも充分です。お腹いっぱいになりましたから」

「そう?なら良かったけど」

目元に線をつくりながら
ニコリと由依が微笑んだ。

恭子はその笑顔に
さらに胸を温められるのを
感じていた。

年上の余裕なのか分からないけど
恭子には由依がとても
魅力的に見えた。

「あの」

恭子は思わず
会計に行く脚を止めて振り返る。

「…今度は私のお気に入りのお店も紹介しますね!」

精一杯の感謝を込めた言葉が
彼女へと伝えられる。

そんな恭子に
由依はくしゃりと笑った。

「是非、お願いしますね!」

2つ年上の彼女とのランチタイム。

今までにないくらい
充実した時間になったことを

恭子は思いかえしながら
ポツリと呟いた。

「たまには…外もいいかもしれないなぁ」

それから週末必ず
いつも同じ定食屋に食べに行く
恭子の姿が度々みかけられたそうだ。

もちろん
隣には彼女の姿も一緒に…
 

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