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□制服の羽
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未来が見えない

そう不安になり始めたのは
いつからだろう。

初めて自分の進路を考えた
中学生の時か
それとも高校の卒業式の
桜を見たあの時か。

心の中でジリジリと
何が葛藤して目尻に留まった涙は
不安の塊だったのか
未来への期待の塊だったのか。

もう、私は自由には飛べない。

皆で駆け回ったグラウンドも
寄り道をしたお店も
授業中突っ伏したあの木の机も

全て過去のもので
今の私にはもう
経験出来ないことだらけだ。

「島崎さん、これ資料お願いね」

「あ…はい」

手渡されたファイルを
机の端に置くと
ボーッとしていた視界がゆっくり
鮮明にうつされていく。

会社のパソコンの見慣れた画面に
開かれた1枚の画像。

卒業式の日
自宅前で最後だからと
両親にせがまれ

恥ずかしがりながらも
手でピースをつくって撮った
思い出の1枚。

もう何年も袖を通していない制服は
今どこにあるのだろう。

社会人になってから
窮屈で仕方がない
この世界にいる私には

もう
自由な空へ連れて
行ってくれる羽がない。

「……お母さんに、LINEしてみよう」

大人になった今の私には
似合わないであろうあの紺の制服。

それでも、もう1度袖を通す。

またあの空へと戻るために。

袖を通せば私たちは
思い出のあの場所へといつだって
帰ることが出来るのだから。

辛くなったって
1人じゃないことを
私たちは知っているから。

《ぱるる、今日会えへん?》

画面に表示された文字に
私は顔に微笑みをうかべながら
空想上のタンスを
ゆっくりと両手で開く。

「………あった」

紺の彼女に袖を通し

さぁ、もう1度
"制服の羽"を広げて。
 

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