長編 『マフィアと付き合うってどうなんでしょう。』

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「・・・ぁ、れ・・・、私・・・」






眉を顰め、目を開ける。眩しい。寒い。
小さく掠れた寝起きの声で、うー、と小さく呻く。

うつ伏せで寝ていた頬を枕から上げ、辺りを見回す。





「・・・・・ッ、いった・・・」





鈍い痛みが下腹部と腰に走る。あまりの痛さに、上げた顔をボス、と枕へ押し付ける。
顔を歪め、腰を抑える。

暫くして、息を整え、布団から出た。







「・・・寒い。」






なんだか厭な夢を見た気がする。

厭な・・・と言うか、恥ずかしい夢。





畳の寝室から、フローリングのリビングへ移ると、足の裏から辛い寒さが浸みる。
時計を見ると、7時。



「・・・7時か・・・」



ハンガーに掛けてあった上着を羽織って、お湯を沸かす。









「・・・あれ、私・・・パジャマ、着たっけ・・・」




昨日、寝巻を着た覚えがない。



「?」



首を傾げ、壁にフックに掛けたレジ袋の中から、朝ご飯に、と買っておいたパンを出す。




「今日は・・・10時から講義で、1時からバイト・・・パン屋さんか。」




カレンダーを確認し、インスタントコーヒーとパンを持ってテーブルに座る。





チラリ、とリビングを見る。


・・・クッションはあんなところだったか。
自分は右に寄り掛かる癖があるから、クッションはソファの右端に置いている。

なのに今は真ん中に。
昨日はこたつで温んでいた筈だ。なのに、何故。


更に疑問符を浮かべる。




朝食を摂り終わり、服を着替える。
着替えている途中、玄関の方からガチャガチャと鍵を開ける音がした。



「えっ・・・」



ぎし、と身体が固まり、鼓動が早まる。

情けなく腰が抜けて、着替えようとしていた上半身の服を胸に当てる。

ギシギシ、と床を踏む音がして。


名無しのいる寝室―――もとい和室に、近付いてくる。



「や、おはよ。・・・。」





「ぉ、はよう・・・ござい、ます・・・」


呆然と名無しが返すと、彼は少し目を丸くして、こちらへ背を向けた。

「・・・失礼。お着換え中だったね。」


「あぁ・・・いえ・・・」



名無しはもくもくと服を着ながら、青褪める。



・・・あの人、知ってる。



・・・夢に出て来た人・・・・・・あれはそもそも夢なのか?

やけに生々しくて、官能的だった。



思い出すと、顔が赤くなる。


・・・と言うか、あの人、当たり前の様に言えに上がり込んでる・・・。

・・・誰だっけ、何か、自己紹介してた、気が、する・・・



「あ、・・・えっと・・・・・クローリーさん・・・?」




「ん?何?」


どうやら彼の名前はクローリーで合っているようだ。



「あの、・・・・・・えっと、何て言うか、その・・・」



「ぅん?・・・あぁ、シたね、僕と。」



「・・・やっぱり、そう、ですよね・・・」


夢じゃなかった。


・・・では、パジャマは?

寝巻を着た記憶もないし、昨日は途中から記憶もない。



「よく寝れた?」


「あ、あ・・・はい。」


「そ。じゃ、お邪魔しました。」





三つ編みを揺らし、踵を返したクローリーに一瞬流されそうになる。





「はぁ・・・・・・・。・・・え・・・!?」

だが、我に返り、彼を追いかける。
腰痛は相変わらずだが。




「何?」


「いや、あの、あっさりしてるなぁ、って・・・」



位玄関で振り向いた彼が、名無しに怪しげに笑む。



「・・・二回目期待してた?」



「えっ、あ、いや・・・そうじゃなくて・・・。」


「借金の取り立て?」


「あ、はい。・・・てっきりそうなのかと・・・」


「こんな朝からやらないよ。僕は朝弱いんだ。
 ・・・・・・・・・体で返してくれるってんなら、いつでもどうぞ。」


耳元で囁かれ、後ろへ下がる。

朝から過激なシチュエーションで、耳を抑えて、動揺を露わにする。




「冗談だよ。万年発情期って訳じゃないし、僕も。
 今日は君が大丈夫そうか見に来ただけ。特に用事もないから、安心しなよ。」



不意に頭を撫ぜられる。

「・・・。」

頭が覚醒するに当たり、昨日の出来事が蘇ってきた。

が、いきなり頭を撫ぜられるだとか、慣れていない事をされると、変に緊張してしまう。




「じゃあね、名無しちゃん。」




「あ、はい・・・」


バタン、と閉じられたドアを呆然と見つめる。




「・・・・・・・・・・あ、何でカギ持ってるか聞き忘れた・・・・」







名無しが呟いた、午前7時半。
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