BOOK
□孫堅r
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寝巻きではあるけど、綺麗な刺繍が施されている高いやつ。
着せられている感があって、今すぐにでもジャージに着替えたい衝動に駆られる。
「どうした?
寒いだろう。」
入り口で突っ立ったまま動かない私に、孫堅さんは笑って部屋へと招き入れる。
これから…、大人のアレコレが始まるなんて、全く匂わせない温かな笑顔。
もしかしたら、何かの聞き間違えだったのではないかと思ってしまうほどだった。
しかし、温かな手で背中を押された先には寝台があって、思わず足が止まってしまった。
そんな私に、孫堅は怒らずに、そっと背中を押していた手を離した。
「(ここは謝って帰ろう。
今なら間に合う。)
あのっ……わっ!?」
フワッと浮遊感。
足が地面から離れていく。
不安定になって、思わず目の前にある太い首にしがみつく。
「すまんな。
お前の意見を尊重したいが…。
目の前の獲物を逃す虎ではないのだ。」
耳元で、低い声で囁かれる。
恐怖とは別の何かが、私の身体を硬直させた。
顔を合わせたくなくて、首元に埋める。
汗に臭いがする。
汗臭いとかではなくて、その…、雄を、感じさせる臭いだ。
ギシリと寝台が軋む音がした。
孫堅さんが寝台に腰掛け、私が彼の膝に横座りしている状態だ。
てっきり、このまま押し倒されてしまうのかと思っていたが、彼は私の背中を撫でたり、頭を撫でたりするだけだった。
「…孫堅、様。」
ようやく顔を首元から離し、彼の顔を見れば、思ってた以上に近くて顔が赤くなった。
真っ直ぐ私を見つめる彼の瞳に、私は目を離したかったが、離すことが出来なかった。
「ひとみ。
様、ではないだろう?」
まるで、子どもに言い聞かせるように、優しく頭を撫でて言う。
しかし、瞳はまるで飢えた獣のようにギラギラとしていた。
「孫堅、さん…。」
私がそう言うと、よくできましたと褒めるように笑った。
褒められることは、どんな些細なことであっても嬉しいものだ。
私は自然と彼の笑顔につられて笑った。
「無理する必要はない。
ここはお前が自由に生きていい場所だ。
誰も何もお前を傷つける事はない。
仮にそんなことがあったとしても、俺が守ることを約束しよう。」
なんでこの人は、こんなにも優しく接してくれるんだろう。
「(…どうせ、この目のためなんだろうけど。)」
すぐに出る答えに、暖かくなっていた心が一気に冷えるのを感じた。