SHADOW (短編集)

□†架空の死者…†
10ページ/10ページ



「正直…、本当だって受けとめきれないんだ…」

「ぇ…、どうして…」


「つじつまが合ってるけど、記憶がないから。ただ聞かされただけで、複雑な気持ちかな…。何でそんな大事な事も覚えてないんだろうって思う」

「……………」


何も言えない。

あの時のシャドウは…、母親が居なくなった事に対して悲しんでいた。


本当は気持ちが抑えきれないくらい、悲しんでいたのに、涙を流して別れを言っただけだった。

そんな気持ちを今の彼は覚えていない…。


…思い出しても思い出せない。


過去の自分を聞いても、それが起こった事だと実感出来ない気持ち。



「ごめん…、こんな事しか言えなくて…」


視線を落とし謝る。

横顔を見ると、笑っていない。















…あぁ………



そうか……


「…変わったね」


「……………え?」


横顔から僕に正面を向ける。

笑っていない。
そうだよ。
誰かが死ぬ事に対して、笑える筈がない。

それが自ら死ぬとしてもだ。



「…変わって良かった。…今のシャドウが、僕は一番いいと思う」

そう言って笑みを見せる。


何も知らない子供だった彼。

母親を戻したかった。

どうしても戻したかった。

だけどそれは叶う事がなく、君は自分が死ぬ事を否定した。


最後の最後で否定したから、影が助けてくれた。



生きる事を願ったんだよ…。

君自身が。


あの時の君は笑ってなかったから

変われたんだよ…。



今となっては、シャドウの母親は本当に、父と子を愛していたのかもしれない…。

じゃなきゃ、生かすわけがないから…。









「………………」


僕の顔を見て、へにゃっと顔を緩める。




「俺、そうゆう刹那が好きだな」


「友達として。ね」


「はは。そうゆう事にしといて」


また街を見下ろし、夕焼け空を見上げる。


「この場所も、すっげー好きだよ」


「……うん…。僕も好きだな…」

同じだよ


この気持ちだけは変わらない。

きっと、これだけは変わっちゃいけないと思う。


シャドウ。

僕のはじまりも、君のはじまりもお互いにこの場所からなんだと思う。


僕は変わったりしないから。



だから…、これだけは聞いて





「生きて………」



ぼそっと呟く。

彼を見ない僕を、シャドウは僕を見る。


それからクスッと笑い、また街を見下ろす。



「うん」







変わらない夕焼け空。


僕らはこの日から変わらない。



それが望ましい。









凄く心地がいい。


今はまだ、これでいいよ。



でもね?
どちらか一方がまた、踏み外しかけるかもしれない。


その時は僕が助けてみせる。


だからシャドウ。

君も僕を助けて欲しい。





















僕はそう願うよ……









シャドウ…ーー

















†架空の死者†
ーendー
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ