フェイトエピソード
□頼って頼られて
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それからというもの、俺はたびたびヒサコの店に訪れ、二人で森に出かけるようになった。
彼女の料理はとても美味しく、何度も食べても飽きることはなかった。
ただ、最近気になることが二つできた。
一つはヒサコといるとなにやら変な気分になるということだ。
どことなくふわふわとしていて心地よい、それでいて少し苦しい。
なんとも矛盾した気分だ。
もう一つは、ヒサコがなにか悩んでいるということ。
彼女に聞いてみても、悩み事などないというが、おそらく嘘であろう。
彼女をこわがらせるわけにもいかないので天雷剣は使ってはいないのだが、なんとなくわかるのだ。
そんな疑問を抱えながらも、今日もルミネへ向かう。
今日は早めにひと段落ついたので、いつもより早く休憩時間をとっていた。
朝食には遅いが、昼食にはまだ少し早い。
そんな時間だ。
いつものように取っ手に手をかけ……
『やめてください!離してください!』
中から聞こえた悲鳴に勢いよく扉を開けた。
カランカランーー
『っ!?アルベールさん!』
中に入ると驚いた顔のがヒサコ俺の名を呼ぶ。
よく見ると一人の男が彼女の腕を掴んでいた。
アルベ-ル「何をしている!彼女の手を離せ!」
ならず者「あぁん!?騎士ごときがこの俺様に指図しようってんのかァ〜!?」
声を荒あげ言い返してきた男の呂律は少しおかしく、顔が赤かった。
おそらくテーブルの上にあるグラスには酒が入っていたのだろう。
話し合いは不可能だと悟り、剣を抜いて床を蹴る。
一気に間合いをつめ、男が怯んでいる隙に剣を右手から左手に持ち替え、右手で男の手首に手刀をくりだす。
ならず者「ぐぬっ……!?」
痛みに悶え思わず手を離した男からヒサコを救出し距離をとる。
アルベ-ル「大丈夫か?どこか痛いところは?」
『だ、大丈夫です……。なんともありません』
そう答える彼女の声は震えていて、こわがっているのが繋いでいる手からも伝わってくる。
アルベ-ル「よかった……。それならすまないが、騎士団の仲間を呼んできてくれないか?」
一刻も早くヒサコをこの男から引き離す必要があると判断し、彼女にそう頼む。
ヒサコが外に出るのを見送ってから剣をしまって男に向き直った。
ならず者「くっそ〜!貴様ァ〜!!」
男は奇声をあげてそばにあったグラスを投げつけてきたが、難なく受け止め近くのテーブルの上に置く。
その間に男が近づいて拳を振るってきたが横に受け流し、その勢いで投げ技をきめた。
ならず者「ぐはっ……!?うぅ………」
どうやら酔いも手伝ったのか、今の衝撃で気絶したようだ。
今まで人が来なかったのも奇跡だが、さすがにそろそろお昼時だ。
いつ客が入ってくるかわからない。
店の看板を"close"にしてヒサコと騎士団の仲間を待つことにした。
しばらくして、ヒサコが鎧を着た男二人を引き連れて戻ってきた。
騎士「アルベール団長、こいつですね?」
アルベ-ル「ああ、よろしく頼む」
騎士「はっ!」
騎士団の仲間達は気絶している男を縄でしばって連行させる。
店内には俺とヒサコだけが残った。
『えへへ…。また助けられちゃいましたね』
アルベ-ル「そう…だな。無事でよかった」
『アルベールさんのおかげです。あ、あとお店閉めてくれてありがとうございました。
さすがに今日は無理そうですしね。
あはは……』
アルベ-ル「………」
彼女の引きつった笑みを見るのが嫌で、俺はそっとヒサコを抱きしめた。
『え……?アルベールさん?』
アルベ-ル「ここには俺達しかいない。だから泣いたっていい。
……無理して笑うな」
『あ………。うん…、ごめんなさい……』
小さくそう言って、ヒサコは俺の肩に顔をうずめ、腰に手をまわして静かに泣き始める。
俺はその小さな背中を何度も何度もさするのだった。
『もう大丈夫です。ありがとうございます、アルベールさん』
顔をあげてこっちを見た彼女の目は真っ赤に腫れていたが、どこかすっきりとした表情をしていて俺は安堵する。
アルベ-ル「それはよかった。ところで、その……せっかく落ちついたところに申し訳ないのだが、あの男について教えてくれないか?」
『はい。……あの人はうちの店の常連さんなんです。
でも、よくどこかへ一緒に出かけようと誘ってくるので少し困ってたんです。
最初のうちは断ったらすぐに引いてくれたんですけど、だんだん食い下がるようになってきて……それで……』
アルベ-ル「今日は他に客がおらず、酒も入っていたから強引に連れて行こうとしたわけか」
『はい……』
アルベ-ル「ここ最近の悩みはそいつのことだったのか。なぜ相談してくれなかった?」
『それは……。アルベールさんは忙しいですし、心配かけたくなくて……。
ごめんなさい……』
アルベ-ル「あ、いや、すまない。俺が言える立場じゃなかったな」
『え?』
アルベ-ル「俺もなにか悩み事があったら一人で抱え込んでしまうタイプなんだ。
結局皆に心配をかけてしまい、『ひとりですべてを解決できると思うな』とユリウスに怒られてしまうのだがな。
……だが、今回のことでわかった。
相談されないっていうのは、寂しくて辛いことなんだな……。
俺はこれからなにか困ったことがあったら、おまえや騎士団の仲間にちゃんと相談しようと思う。
だからヒサコも、遠慮なく俺に頼ってくれないか?
約束してくれ……」
そう言って小指を差し出せば、
『ふふ。はい、約束です』
と、うなずいて小指を絡めてくれた。