フェイトエピソード

□頼って頼られて
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森に行きたい。

そうユリウスが言い出したのは昨日のことだ。
なんでも、そこで採れる植物を今度の研究に使うらしい。

街の少し外れにあるその森には魔物が生息しているため、特に大きな用事のなかった俺は護衛としてついて行くことになった。



夕日が辺りを照らし始めた頃、お目当のものを粗方採り終えたらしいユリウスを見て、もう帰ろうかと切り出したときだった。

『キャー!』

そう遠くない場所で、聞こえた女性の悲鳴。
俺は一気に駆けだした。

数十秒で現場へたどり着く。
見ればヘルハウンドが若い女性を今にも襲わんと構えている。

女性の背は木に触れており、これ以上後ろへは下がれないようだった。

俺は一瞬で状況を把握し、迷うことなくヘルハウンドを斬り捨てたーー



『本当に、本当にありがとうございました!』

先程からぺこぺこと頭を下げているこの女性はヒサコというらしい。
この森にハーブを採りに来ていたそうだ。

どうやら、俺が知らないだけで、この森には様々な植物が生えているようだ。

その後、彼女を家まで送り届け、その日はお開きとなった。



数日後。
どこかでお昼をすまそうと街を歩いていると、見慣れない店が目にとまった。

"カフェ ルミネ"

最近できた店なのだろうか。
俺は何故か魅入られるようにしてその店に入っていった。

カランカランーー

『いらっしゃいませー!あっ、アルベールさん!』

アルベ-ル「あなたは……」

店の中には先日森で会った女性ーーヒサコの姿があった。

彼女に案内され、席に着く。

『この間は本当にありがとうございました!』

アルベ-ル「いや、気にすることはない。騎士として当然のことをしたまでだ。
ところであなたはカフェの店主だったのだな。この店は最近できたのか?」

『ええ、実は昨日オープンしたばかりなんですよ。では、ご注文がお決まりになりましたらまたお呼びくださいね』

アルベ-ル「ああ、ありがとう。ちなみに、何かオススメのものはあるか?」

『はい、こちらのオムライスとハーブティーが私のオススメです!』

アルベ-ル「そうか。では、それをいただこう」

『かしこまりました。少々お待ちください』

彼女が店の奥に入ると、俺は改めて店内を見渡した。
少しこじんまりとしていて、あまり飾りすぎない。
しかしそれでいてどこかオシャレな雰囲気も漂っている素敵な店だと思った。

そうこうしているうちに再び彼女が顔をだす。

『お待たせいたしました。たまごたっぷり特製オムライスにハーブティーでございます』

アルベ-ル「お、美味しそうだ。ありがとう、いただきます」

オムライスを一口頬張る。
たまごが口の中でとろけ、甘みがふわっと広がる。
ハーブティーもとても落ち着く味だ。

『実はそのハーブティーは先日森で採ったハーブを使用しているんですよ』

アルベ-ル「そうなのか。ということは、これからもあの森に入るのか?」

『そう、ですね……』

彼女は少し困った顔をする。

『入りたい、とは思っているのですが、やっぱり危険かなって。
この間はたまたまアルベールさんがいらしてくださったから良かったものの、今後はそういうわけにはいかないし……』

アルベ-ル「そうか……。では、今後あの森に入るときは一言言ってくれ。俺が護衛をしよう」

『そ、そんな!悪いです!』

アルベ-ル「なに、民を守るのが俺の仕事だ。気にすることはない」

『そうですか。ありがとうございます!よろしくお願いします!』

そんな約束を取り付けてその日は店を出た。
普通ならこの場合は部下に護衛を付けされるのが妥当だろう。
しかし、何故か自分がやると言ってしまった。
その言葉の裏に隠された真意を俺が気づくのはまだ先のことである。
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