スパイに恋愛はご法度!

□傘
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『雨、か……』

夕方になって突然降りだした雨。
そろそろ仕事が終わってランスロットが帰ってくる時間だ。
傘を持っていった形跡もないし……
私は少し迷った後、立ち上がった。



雨の中街に出る。
右手には開いた傘、左手には閉じた傘を持って。

正直なことをいうと、ランスロットを迎えに行きたくはない。
最近彼といると私は変になる。
今まで感じたことのない気持ちがあふれてくる。

今までの任務では、もっとターゲットのことを知らないと、と思っていた。
けれど今回は違う。

もっと彼のことを知りたい。
もっと一緒にいたいと思ってしまっている。

これはいったい……

私はゆっくりと首を横にふる。
もうすぐ目的地につく。
気を引き締めないと――



城の前には門兵が二人いた。
事情を話し、一人についてきてもらう。

広間には、突然の雨で帰れなくなってしまったのであろう兵士達が何人かでそれぞれ談笑をしていた。
私はその中から幼なじみと一緒にいる目的の人物を見つける。

『ランスロットさん!ヴェインさん!』

ランスロット「ん?ヒサコ?」

ランスロットは一度私を見た後、その背後に視線を向ける。

ランスロット「連れてきてくれたのかな?ありがとう」

門兵「いえ。では自分はこれで」

『ありがとうございました!』

門兵は少し早足で去っていった。

ヴェイン「んで?どうしたんだ、ヒサコ?」

『えっと、ランスロットさんにこれを届けにきました』

そう言って手に持っているものを差し出す。

ランスロット「傘じゃないか!ありがとう、困ってたんだ。助かるよ」

ヴェイン「いいなぁ、ランちゃん。ちなみに俺の分は……」

『ない、ですね…』

ヴェイン「だよなぁ……。はぁ……」

明らかに落胆してため息をつくヴェイン。
しかし、すぐに何かを思いついたようにポンと手を叩いた。

ヴェイン「そうだ、ランちゃん!これはチャンスだ!」

ランスロット「は?」

『チャンス?』

唐突なヴェインの言葉に二人して首をかしげる。
しかし、次にヴェインの口からでてきた言葉はもっと驚くものだった。

ヴェイン「てなわけでさ、傘一本貸してくれないか?」



ヴェインの言い分はこうだ。

私とランスロットは同じ家だから一本の傘で足りる。
だからもう一本は自分に貸してくれと。

それと、もう一つの理由である"チャンス"とやらは、どうやらランスロットに関係してるようで、何やら二人でヒソヒソと話している。

なんだろう……
なんだか嫌な予感がする。
なんというか、こう……私の存在意義を揺るがすような……―――
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