*haikei

□140字SS
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※唐突に暗いSSがあります。お気を付けください。



ごめんね、と彼女はオレに謝った。任務中、自分が巻物を取り損ねたことを、酷く気に病んでいた。
悪天候の影響で白眼が機能せず、遠目が使えない中、彼女は避雷針を呼び出し、果敢にオレを先導した。
雷鳴轟く中、「私から離れないで」と言い放った、テンテン、君の背中は。誰よりも、恰好良かったよ。

『避雷針』








「オレの手と結婚しちゃったな」
片手で糸を解きながら、ネジが薄らと笑う。
複雑に絡み合ったその中で、私達の手が窮屈に重なり合っている。
「この指ごと…オレと結婚してみるか?」
いつもと変わらぬ、冷静な声で。
「オレと……するか?」
糸の絡まった大きな手が、私の指を包む。
返事なんて出来ない。

『結婚』








「少し休憩するか」
そう言うとネジは決まって私の隣に座るから、こっちは休憩になんかならない。
大体解れた髪とか、胸元を伝う汗とか汗とか、お前は女より色っぽいのかっつーの!
「何だ、飲むか?」
……飲むか!
何も知らない天然男の差し出す飲み掛けのコップを、私は全力で拒否した。

『寄るな、色男』(お題)








好きとか愛しているとか、簡単に言えない奴だということは、分かってくれている筈。
だから「ばからしい」と答えてしまうオレの不器用さにも、気付いて欲しい。
……しかしテンテンも、限界だったんだ。
まだ涙の痕が残る頬に触れ、腹を決めた。
――おはよう、ハニー。
オレを見上げる寝惚け眼が、見事な丸になる。

『My Honey』








腰を引き寄せ、軽くキスをする。
それに応える彼女に、応えている内に、歯止めが効かなくなる。
「テンテ……」
「ダメ……止まんな……」
乱れる息、濡れていく互いの唇。
「ネ、ジ……ば、かぁ」
少し軽率だったのは、認めよう。だがそれも、今更、だ。
近付く足音が、あのドアを開ける前に、何とかしなくては。

『ネジがテンテンにキスをすると「もぉ、止まらなくなっちゃうんだけど」と半分怒りながら夢中で唇を重ねてきました』(お題)








黒縁の眼鏡に縁取られている下ろした睫毛は、さっきからぴくりとも動かない。
彼女の脳内では、今重要な計算式が解かれている。
「分かったわ」
暫く待っていると、突然ぱちりと円らな瞳を開け、宣言した。
「目玉焼きに、醤油が合う理由!」

……別に、今に始まったことではないから。然程驚かない。
「……そうか」

『白衣に眼鏡で目を閉じているネジテンを妄想してみよう』(お題)








「泣くな。また今度連れて行ってやる」
そりゃ、泣くでしょうよ。折角ネジとお出掛けだったのに。休みって何よ。
お店の前でえんえん泣く私を、ネジが引っ張っていく。
「お団子、食べ放題?」
「ああ」
「わらび餅も?」
「……分かった」
溜め息混じりのネジの腕に、ぎゅうっとしがみ付いた。どうせ単純だもの。




硬直したオレの前で、雀色の瞳が瞬きする。
鍛錬の後の、彼女の頬を伝う汗が、緩められた胸元に浮かんで流れるそれが、オレの脳を侵していた。
「ネジ……?」
小首を傾げる彼女が、白々しい。
この甘い香りに誘われた振りして、首元でも舐めてみようか。
いや、舐めてみたい。この甘そうな一滴を、是非とも一口。




朴念仁とか冷酷悪魔とか、周りからは酷い言われ様でも、私はみんなの知らないことを知っているんだって、ちょっと嬉しくなっちゃう。
「…おかえり」
私だけに向けてくれる、これが好き。ネジはね、本当は可愛いの。器用だけれど不器用な、笑顔がとっても似合う、私の……。
「ただいま!」
――大切な人。

『ネジテンへの3つの恋のお題:交わした約束/あまい蜜のような/はにかんだ笑顔の君に』








「目を閉じろ」
しんと静まった教室内では、既に一時限目が始まっている。
今から入ったら、確実に怒られる。
「ほら、深呼吸」
強張った私の肩に両手を置いて、それでもネジは大丈夫だと笑い掛ける。
――オレも一緒に、怒られるから。
寝坊した私の失態を何でもないことのように言って、ネジは目の前のドアを開けた。

『授業中の校内で、目元を緩めて「目を閉じて」』(お題)








或る夜、ネジが夢の中に出て来た。
彼を見るのは、いつ振りだろう。
懐かしい笑顔に、涙が溢れて、胸の中に飛び込んだ。
小さな私をすっぽりと包み込んで、優しく頭を撫でながら、ネジは耳元で囁いた。

――お前の声、ちゃんと聞こえていたよ。
地上で誰かを想う気持ちはね……しっかりと死者に届くんだ。

『夢』








悪い夢を見ているの。沢山の血が流れていて、とても凄惨で恐い夢。
何度も目覚めなきゃって思うのに、全然覚めてくれない。
こっちのネジは、コワイの。
私のこと、ちっとも見てくれなくて、段々冷たくなっていくの。
ああ早く、起きなきゃいけないのに。

ねえ、ネジ。どうして私は、目覚めないのかな。

『悪夢』








「ネジ、首元よれてる」
「ああ、すまない……」
白い手が胸元に伸び、オレの装束を整える。
ふわりと、甘い香りが彼女から漂い、ぎこちなく目を伏せる。
鼓動の上を、柔らかな手が滑り、何か落ち着かない。
何だか新婚さんみたいですね、と微笑むリーを、彼女は笑い飛ばし……オレは火照った顔を俯けて遣り過ごした。

『おもむろに 相手の着衣を整える。』 (お題)









何となく、もうダメだと思った。
地に伏せた体は少しも動かなくて、恐らく腹から溢れている、血液の温度さえも知れない。
何故か彼の顔が浮かぶ。怒っているのだろうか、こんなに無理をしてと。
ああ、でも…笑っている。良かった……。
少年のままの笑みに安堵して、ほろりと涙が零れる。
ああ、やっと――。
迎えに来てくれたんだね、ネジ。

『使者』








――どうする、この状況。
完全に囲まれた。二人共生還するには、少し厳しいかもしれない。
じりじりと距離を詰める敵をクナイで牽制しつつ、背後のネジを確認する。
「どうする?ネジ」
Dead or alive、生きるか死ぬか。
不敵に微笑む口の端が、皮肉っぽく告げる。
――ああ、抗うさ。
「……了解」
奇遇じゃない。私も諦めが悪い性質なのよ。

『Dead or alive』








乾いた銃声が響いた。間を置いて、もう一発。
振り返ったテンテンの顔が、驚愕に満ちている。
ネジが何か言う前に、彼女は駆け出した。黙ってネジもそれを追い、元来た道を引き返す。
心当たりがあった。恐らく彼女と同じ。
森の入り口で、ほんの半刻前、彼女が戯れていた、兎の親子――。

『兎@』








酷い、と彼女は項垂れた。
雪の中に蹲る仔兎、その腹は赤く汚れていた。
そっと柔らかな毛並みに触れる。まだ幾分温かいが、既に息絶えていた。
粗即死だったのだろう。一緒にいた母兎がどこにも居なかった。
――テンテン、大丈夫。きっと。
この子は幸せな所に。ぽろぽろと涙を流しながら、彼女は頷いた。

『兎A』








違う、待て、これは違うと繰り返すネジを、ぼうっと見つめる。
違うって……? 一体ネジは何を言っているのだろう。
確か私は、転びそうになって、ネジに受け止められて……そして……。
――不可抗力だ。
そう言われてやっと、彼の手に胸を掴まれた感触を思い出し、私は瞬時に弁解するネジの顔をぶん殴った。

『(嬉しい)ハプニング』








腕の中できょとりと此方を見上げる、大きな瞳。
彼女から無理矢理持たされた仔猫に、オレはどう反応すれば良いのか分からなかった。
――ね? ふかふかで柔らかいでしょ? ……確かに柔らかいが。
笑みを向ける彼女に、オレは視線を漂わせ曖昧に返す。
昨日触ったお前の胸ほどは…とは、やはり言えなかった。

『(嬉しい)ハプニングA』








噴煙の立ち上る中から、やがて小さな人影が見え、ネジは急いで駆けていく。
たった一つの小さな人影は、彼女が傍で守り、行動を共にしていた子供のものであった。
「……一緒にいた、お姉さんはどうした?」
震えないよう、慎重に出した声に、押し黙って俯く頭。
答えを持たぬ子供に、世界が暗転した。

『救援活動@』








「……分かった。大丈夫だ。向こうに行っていよう」
怯えないよう優しく語り掛けると、裸足の足先に配慮し、子供を抱え上げ医療班に連れて行く。
そして直ぐに、ネジは煙を排出する山の中腹を、遠目で見据える。
噴火が収まるまで、行ってはならない。
後ろから聞こえる部隊長の蛮声に、ネジは従わなかった。

『救援活動A』








夥しい噴煙の中、白眼を頼りに進んでいると、降り積もった灰に埋もれ掛けている人の足が見えた。
確信した。急いで灰を除け、横たわった躰を起こす。
意識がなかったが、微弱ながらも息をしていた。
大丈夫、生きている、大丈夫。
自分に言い聞かせるようにして、ネジはくたりとしたテンテンの躰を抱き寄せた。

『救援活動B』








神父の読み上げる誓約に、オレは迷いなく頷いた。
静謐とした教会での挙式は、彼女の希望だった。
だから、彼女がこうして黙り込んでいるのが解せない。
若しや、オレとの婚姻を後悔しているのか。
段々と騒めき出した聖堂内で、ついに彼女は告げた。
「だって、妻とか夫とか、こんなの柄じゃないんだもの! 恥ずかしいのよ!」

『結婚式』








すきな食べ物はぁ〜イチゴでぇ〜す♪とか、私も言いたいとは思っている。
でも実際に好きなのは、中華まんとゴマ団子。すごい重量感。
何それ! ぜんっぜん可愛くない! ぜんっぜん女の子らしくな〜い!
……とか思っている間に、やだ、私中華まん3つも食べてる……!?
ちょっとネジ! 笑っていないで止めなさいよね!

『苺と中華まん@』








彼女が中華まんを頬張る姿が、好きだった。
修行終わりなんかは、腹が減っているのだろう。
ペロリと一つ平らげ、追加を頼む姿に、笑みが零れる。
いつも体型を気にする彼女は、本当は食欲旺盛。
後悔するなら、それはそれ。オレは別に止めたりしない。
……お腹一杯になるまで、沢山食べると良い。

『苺と中華まんA』








ネジからのお返しは甘くて優しいミルクキャラメルだった。

【これからも、よろしく】とだけ書かれた、不器用さの滲み出るメッセージカードに心底安堵した。
良くも悪くもネジらしい。
でもちゃんと伝わったよと、甘いキャラメルを口の中で転がして、何気なくテンテンはカードを裏返した。

【……オレも、大好きだ。】

『Be my valentine〜whiteday special〜』





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