*book-R

□遊戯U
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――嫌ではないか……? テンテン―――。



 あれから色々とテンテンは考えていた。

 あの時二人で分け合った快楽。身体に擦り付けられたネジのその熱を思い出せば、言いようのない気持ちが込み上げる。
 テンテンに触る度に、若しかして毎回ネジは我慢して、辛い思いをしていたのではないだろうか。ネジが立てた、前戯だけという二人の“約束事”――あれをテンテンの方から破ろうとは言わないが、でも恋人同士であるのに、このまま先も彼に我慢を強いるのは心が痛んだ。元々ネジから言い出したことなのだが、それも多分、テンテンを想ってのことだから……(避妊目的もそこにはあるだろうが、恐らくは大人になるまではテンテンを汚したくない、と一途に望むネジの想いだ)。自分にもやはり責任の一端があると感じてしまう。
 それなら、“解放”してやればどうだろうか。ネジがいつもテンテンにするみたいに。恋人なのだから、問題ないと思う。あの熱を、どういう風にしたら満足するのか、慰めの方法を知らない訳ではない。けれども、今までそういった任務も幸いか回って来なかった。テンテンの方からはとてもではないが言い出せない。まるで未知の事象で、どうしても二の足を踏んでしまう。だから、“そういう雰囲気”になったら、その流れで触ってしまおうか……などと案外大胆なことを閃いたものの、そんな時に限って中々、“訪れない”ものだ。

 今はリビングで新聞を読みながら、ネジはコーヒーを飲んで寛いでいる。テンテンは念を入れて、ネジに会いに行く度に、密かに心の準備をしていたのだが、会っても彼と毎回ベッドに行く訳ではなかった。
 今日もまた、穏やかな昼下がりが二人の間に流れている。きっとこの後も取り止めのない会話をして、無難に休日が過ぎてゆくのだろう。
 テンテンの気配を、察している筈なのにネジは振り返ろうともしない。恋人がこんなに悩んでいるのに、呑気に頁を捲ってコーヒーを啜っている。段々と不満が募って、剥れてきたテンテンは、こっちを向けという意味を込めて振り返らないネジを呼んだ。随分と恨めしい声が出た。

「ねえ……ネジ」

 側に感じる気配に、実のところネジが安堵していたこと。優しい恋人の心の拠り所となっていたことにも、気付かずに。そんなテンテンに呼ばれてみれば、彼が反応しない筈がなかった。
 先程から後ろにちょこんと佇んでいるのを心得ていたネジが、紙面から目を離してテンテンを振り返る。どうしたのかと、いかにも言いたげであるその表情を見て、テンテンはチャンスだと思いつつ、いざとなったら尻込みしてしまう。

「ちょっと、話が……は、話っていうほどのことでも、ないけど」

 何とか話し出せたが、行き成り墓穴を掘った。大した用件でないということを強調しようとしたら、却って目立ってしまった。その証拠に、ネジが完全に目の前の新聞記事から興味を逸らして、椅子の背凭れに片腕を預け、体ごとテンテンの方を向く。

「何だ? 改まって……どうかしたのか」
「ど……別にどうもしないんだけど……あ、あの、さ……」

 内容が内容だけにもごもごと口籠ってしまう。ちゃんと言葉を考えてから話し掛ければ良かった。ネジはこういうはっきりしない態度を余り好まないとテンテンは思う。というか、昼間から夜の話を持ち出すのも、どうなのかと今更気付いてしまって、益々言い出せなくなった。

「…………もしかして……したいのか?」
「へ?」

 知らずの内に手足をもじもじとしているテンテンに、ネジがそっと見当を付ける。テンテンが躊躇して言えなかった“夜の話”は、ネジの方から齎された。昼間向けではない話題を配慮して、潜められたネジの声に、テンテンはそう察した。

「そんな顔しているぞ」
「えっ!? うそ」

 顔に出ていた……? 信じられない自分の表情を想像するまでもなく眩暈がした。思わず熱くなった頬をテンテンは指先で押さえる。
 ネジの“読み”は当たらずとも遠からず……いや、然して近くもないのだろうか。椅子から立ち上がって、後ろに回り込んだネジが、愛しげにテンテンを抱き寄せて体中を掌で撫で回す。テンテンの望みとは真逆のことを、しようとしているのが見え見えだ。

「あ、ち、ちがうの、ネジ……今日は……」
「何も違うことないだろう……オレはそういうの、気にしないから……もっとはっきり言って良い」

 ネジが服の上から体を弄りながら、テンテンの耳元に低く囁く。こういうコトは、女の方からは言い出し難いだろうと、変に気を利かせてくる。勝手に欲求不満だと思われてテンテンとしては心外だ。必死に否定してネジの腕の中で身を捩るが、体を意味ありげに彷徨う掌に、情けなくもピクリと反応してしまう。もうそういう風に、仕込まれていた。心とは裏腹に、ネジに触れられたところがどんどん火照っていく。
 分かり易い声が漏れて、気を良くしたらしく、ネジが服の上から柔らかな膨らみを探す。二つのそれを掌で包んで、丹念に揉み解して、きっちりと感触を味わってから服を捲られる。テンテンが小さく声を上げても、お構いなしだ。流れるような手付きで胸元を晒される。
 いつもと何ら変わらない、こんもりとした膨らみを覆い隠す細やかなレースのブラジャーが、二人の前に現れる。後ろからそれを見下ろしていたネジが掌を滑らせた。耳元で聞こえるその息遣いが、徐々に興奮の色を見せ始めた。
 ブラジャーを押し上げられて、プルンと、丸い膨らみが揺れて落ちる。と同時に、左右の桃色の突起が目に入ってテンテンは頬を赤らめた。布の上から撫でられただけなのに、軽く主張しているのが自分でも分かる。空気に晒されて、恥ずかしげに震えるようなそれに、ネジが直に指を掛けた。

「あぁ……だめ、それぇ……」
「……そうだな。テンテンは、ココがだめだものな」

 ネジの手を止めるつもりで言ったのに、声が甘ったるく伸びてしまう。唇で頬を啄みながら、低く優しくネジに囁かれて、抵抗する意思が挫けて吐息に変わる。
 こういう時の否定の言葉が、そのままの意味ではないのだと、ネジは心得ている。だから“だめ”と言ったら、もっと嬲られる。柔らかな先端が硬くなるまで、指先で何度も懇ろに揉み解されて、無意識の内にテンテンの腰が揺れた。
 このままでは、どんどん流されてしまう。既にネジのペースに嵌っている。どうしよう……どうしよう―――。
 戸惑っている間にも、今度はテンテンの前に回ったネジが、十分に硬く変化を遂げた乳首を口に含んで舐め転がす。しっかりともう片方も指先で抓まれて、また丁度良い加減で捏ねられて、テンテンは異なる両側の刺激に堪らず力が抜ける。

「ン……そこに座ろう」

 ちゅぷ……と吸い付いて、ネジが濡れた乳首を口から外す。声と同時に吐かれた息が、テンテンの胸元を擽った。
 ネジが脱力し掛けたテンテンを支えて椅子まで運ぶ。先程新聞を読んでいた所まで来て、テンテンを座らせると、ネジはその前に腰を落として膝立ちになった。
 また胸元に顔を突っ込まれて端整な口元で吸われる。乳房を啄む度に、ネジの綺麗な鼻筋に押し上げたブラジャーが当たって擦れている。胸を揉み込む方ではない反対の掌が、白い脇腹をするすると撫でていって、嫌でもテンテンの内腿に力が入った。
 また、自分だけ気持ち良くされてしまう。早く、伝えないと―――。ネジにされるがままになって体が内側から濡れそぼっていく。
 徐々に腹を撫でていた掌が下降していって、強張った腿に達した。

「ネ、ネジ」

 それまで漏れていた嬌声とは異なる、切羽詰まった声が降って、ネジの愛撫が止んだ。胸から顔を上げたネジが、不思議そうにテンテンを見つめる。

「……どうした?」

 解放された胸の先端がじんじんと痺れる。呼吸を整えながら、テンテンは猛烈に熱の集まる顔面を堪えて真面目な面持ちのネジを見た。きっと耳まで赤くなって、酷く情けない顔をしている。しかしもう今を逃したら、言えない気がした。

「あ、あのね……今日は、私……も……その……す、する、から」
「……する……? 何をだ?」

 途切れ途切れの小さな訴えに、大人しく耳を傾けていたネジはそれでも残酷な程に尋ね返す。この状況で、分からないのだろうか。一生分の勇気を出して、やっと言えたというのに。ネジは幼気な乙女に、淫猥な台詞を皆まで言わせようとする。
 本当に何も察していないような、思慮深い薄紫の瞳を一心に向けられて、まるであたふたとする自分が見透かされているみたいでテンテンは自棄になった。

「だ、だから……ネジのを、するから! だ、だから、服脱いで」

 語気強く言い放って、直ぐ様テンテンは手を伸ばす。
 ぽかんとして固まっているネジの服の裾を掴むと、勢いのままに捲り上げた。
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