私立九瓏ノ主学園 アルスマグナ

□僕を止めて
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アキラ先輩、と声をかけようとした。

すると、駅近くの踏切の音が辺り一面に鳴り響いた。

カンカンカンカン……

雨を遮るようにして、鋭く音を立てている。

どうせ帰る場所が同じなら、アキラ先輩と一緒に乗ろう。

次こそ声をかけようとした時だった。

アキラ先輩の体が線路側に倒れる。

このままでは線路に落ちてしまう。

すぐそこまで電車は来ているのに。

どうするか考えるより先に、体が動いた。

地面を勢い良く蹴ってアキラ先輩のもとへ駆ける。

アキラ先輩の腕を掴み、自分の方へ引き寄せた。

電車が僕らの前で停車する。

沈黙の時間が続き、僕らを置いて電車は行ってしまった。

あぁ、次の電車が来る時間まで待たなければいけない。

アキラ先輩の行動に焦りを感じて落ち着かない体とは裏腹に、案外冷静な頭でそんなことを考えた。

目の前のアキラ先輩を見る。

目は虚ろで表情は暗く、僕の方を見ようとしなかった。

「ア、キラ、せんぱ」

絞り出した声で彼の名前を呼ぶ。

依然反応はない。

「何、しようとしてたんですか」

うまく声が出ない。

今の、アキラ先輩に届いたかな。

「……逃しちまったじゃねぇかよ」

「……はい?」

「タイミング、逃しちまったって言ってんだよ」

アキラ先輩の鋭い眼差しが僕に向けられる。

あの太陽のような笑顔からは想像もつかないような、見たこともない表情。

そして、いつもより明らかに低い声と、冷たい物言い。

「……何のタイミングですか?寮に帰るタイミングですか?それともこの世から消えるタイミングですか?」

何故かいつもより落ち着いた頭で言葉を紡げば、アキラ先輩は少しだけ怯んだように見えた。

「チッ」

アキラ先輩が舌打ちをする。

いつもなら絶対しないのに。

今日は何か様子がおかしい。

「……腕、離せよ」

「嫌です」

「離せっつってんだろ」

「嫌です」

「だから離せって言ってんだろ!!」

アキラ先輩って、こんな人だったっけ。

こんなに冷酷で、暴言を吐くような人だったっけ。

それでも負けてはいけないと、心を強く持った。

「……離したら、いつものアキラ先輩に戻ってくれますか」

「……は?」

「今のアキラ先輩は、いつものアキラ先輩じゃないです」

「……なんも違わねぇよ」

「……今は違います」

今だけ。

今はアキラ先輩じゃない。

「……次の電車が来るのは1時間も後ですし、近くで何か買って食べながら待ちません?」

アキラ先輩は肯定も否定もしなかった。

僕はそれを肯定だと捉え、アキラ先輩の腕を掴んだまま半ば強引に連れ、歩いて数分のコンビニへ向かった。
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