私立九瓏ノ主学園 アルスマグナ

□混色
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「俺、好きなんだ。お前のこと」

ある日の昼休み。

いつも通り昼食を取っていたら、いきなりその言葉を告げられた。

もちろん男に対しての恋愛感情など一切生まれないし、生まれるはずもなかった。

それなのに……




・・・




部活の時間。

いつもならもっとガヤガヤとしているはずなのに、今日はいつもより静かだった。

それはきっと赤髪のあいつがいないからだと思う。

「奏先輩、なんで今日アキラ先輩休みなんですかー?」

パクのそんな問いかけに、俺は 知りません と一言返事で済ませる。

機嫌が悪いと受け取られたのか、パクは わかりました とだけ言って引き下がった。

知らないわけではない。

おおよその予想は立っている。

昨日の告白の件だろう。

あの後結局返事を濁らせたままにしてしまったのがいけなかったのか?

もっと親身に受け止めてやるべきだったろうか。

あいつにしては真剣な表情をしていたことを思い出し、自分が素っ気ない返事をしてしまったことを後悔した。

……何故俺がこんな思いをしなければいけないんだ?

そもそも、恋愛に疎い俺が同性に対して恋愛感情など持つはずもないのだからしょうがない。

あいつのことだから、そのうちケロっとした顔で復活するんだろうな。

「さぁ、始めるぞー」

先生の一言で、みんなが立ち上がる。

今日は全体的に活気がないように感じられた。



部活を終え、寮に戻る。

アキラがいないので、パクと2人で帰っていた。

「アキラ先輩、心配ですね」

パクが突然口を開き、真剣な面持ちで言った。

「そうですか?」

俺の心配する素振りも見せない返事に驚いたのか、パクがこちらを見て目を丸くする。

「心配じゃないんですか?!」

「どうせアキラのことですし、すぐ復活しますよ。きっと」

「きっとって……本当は心のどこかでアキラ先輩のこと心配してるんじゃないんですか?」

パクが そうでしょう? とでも言うように俺の顔を覗き込んでくる。

心の……どこかで……

その言葉が妙に引っかかる。

俺はあいつのことを心配しているのか?

原因がわかっている以上、気にかけざるを得ないということか……。

「……そうかもしれませんね」

パクは、俺の意外な返答に、見開いていた目をこれでもかというほどにさらに見開いた。

「……アキラ先輩の部屋、訪ねてみたらどうです?」

何故俺が?

なんて一瞬思ってしまったが、さすがにストレートにぶつけてしまうと面倒臭い。

黙っておいた。

「そうすることにします。では、また明日」

「また明日〜」

ちょうど寮の中の分かれの道にきたところで、挨拶を交わした。

自分の部屋の扉を開けるとき、どうしても隣の部屋を気にしてしまう。

物音は何一つ聞こえてこない。

寮の壁は思っている以上に薄いため、いつもならバスケットボールを壁にぶつける音や、気分で曲が変わる鼻歌が聞こえてくるはずなのに。

何故だろう。

胸の奥がひどく痛む。
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