漆黒の天使

□six
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大阪観光も終わり、米花町でいつもの生活を送る毎日に戻った。変わったことは私がよく蘭達と遊ぶようになった事。何度も探偵事務所に招かれてはお喋りしたりご飯を一緒に食べたり勉強したりと、まるで家族のように過ごしていた。
しかし、彼女達と交流が増えるということは、危険性も増えるわけで……



「おや蘭さん、その方は?」


「私の友達の秋桜魅也です。魅也、彼はお父さんの助手をしてくれている安室さん」


「安室透です、初めまして!」


『………』



いつものように遊びにいったらランチのお誘いをしてくれたので毛利探偵事務所のすぐ隣にある喫茶店ポアロに行ってみると、そこには褐色の肌にブロンド髪の見慣れた人物が。
前にコナンが教えてくれていたとはいえ、実際に見てしまうと表情に出てしまいそうになるのが性だ。
黙ったままの私を不思議そうに見つめる蘭とバラすなと言いたげなコナン、何で貴方がここにいるんですかと顔で言っているバーボン。



『……初めまして』



ちゃんと言えた私は大人だと思う。




「蘭さんはいつから魅也さんとお知り合いで?」


「結構最近ですよ。去年の冬に私が転びそうになった所を助けてもらったんです」


「なるほど……」



何がなるほどだ。組織からいなくなったタイミングでも考えているのか。



『あの、何か?』


「いえ、特には」


『………』



徐々に空気が重くなっていくのがわかる。蘭もどうしようかとコナンと顔を見合わせていた。



「ではご注文がお決まりましたらまたお呼びください」



気を使ってなのかそういうバーボンを睨むようにして眺めると彼はカウンターの方まで戻っていった。それを確認してから蘭達に謝る。
蘭は大丈夫だよと言ってくれたが申し訳ない気持ちが余計に募ってしまう。コナンは事情を知っているから何とか蘭に不審に思われないように必死にフォローしてくれた。


何せバーボンとは顔を合わせ辛い。スコッチの件で粘着されていたのはもちろんだが、その彼を助けてあげられなかった事に引け目を感じているのも事実。ライは彼に真実を言わなかった。だから私がいう必要はない。でもそれを苦しいと思ってしまうのはコナン達と仲良くなってしまったからだろう。



「顔色悪いよ?家まで送ろうか?」


『いえ、気にしないでください……でも、お暇させてもらいますね。せっかく誘ってくれたのにごめんなさい』



荷物を持って立ち上がると戸惑う蘭。そんな悲しそうな顔をされるとこちらも辛い。でも今の私は冷静じゃないのだ。皆に酷い事を言ってしまいそうで怖い。



「大丈夫ですか?顔色が優れないようですが」


『いえ、お気になさらず』



出入口までの道のりに立っているバーボンの横を抜けるようにして身をかわしたのだが、がしりと腕を掴まれその場に留まった。掴んだのはもちろんバーボン。何をしているんだこいつはという目で睨むが彼は甘いマスクを被ったままニコリと笑って話しかける。



「僕、車持ってるのでお送りしますよ」


『結構です』


「こんなに綺麗な方が弱々しく歩いていては白昼とはいえ危ないですよ。こういう時は男に格好つけさせてください」



笑ってそういう彼は私の知っている彼じゃない。それが余計に気持ち悪かった。バーボンの言葉に顔を赤らめている蘭。もしかしてそういう事か!という顔をして送ってもらった方がいいと私に言う。何を勘違いしているんだと返したかったがここは引こう。



『ではお好きにしてください』


「はい!」



ポケットから車の鍵を出すとそういう彼。他の店員にもすでに話していたようで普通に外に出ていく。前からそうだったけど仕事が早い。



組織いた時から見ていた白い車。Rなんちゃらって名前のスポーツカーだ。ライもカッコイイ車に乗ってたけど、彼も車に拘りのあるひとりだ。性能がいいからですって言われそうなものだけど。






「……何故貴方が彼等と一緒にいるんですか」



車に乗るなり彼は安室透からバーボンに変わる。喧嘩を売るようなセリフにそれはこっちのセリフだと言いたいが無視した。彼が勝手に送ると言って引かなかったんだから、そこまで強要されてはたまったものじゃない。
黙っているといつまでも見つめてくる彼に私は折れて彼を見る。



『バーボンこそ、あんな所で何をしてるんですか。組織が命令した事だとは思えませんが』


「組織を裏切った貴方に言われたくないです」


『裏切った?』



まさかの言葉に変な声が出る。彼はしてやったりとでも言いたげな表情で言葉を続ける。



「だってそうでしょう?10億円強奪事件の時から貴方を見ていない。ということはそこから貴方は組織を裏切ったわけだ。殺されたと思っていましたから生きていて驚きましたよ。それどころか俺の近くに潜んでいたとは……灯台下暗しとはよくいったものです」


『……そうですか』



何かもう反論する気が失せた。勝手な憶測で私を決定づけているのなら仕方がない。そのままどちらとも取れない返事をして茶を濁しておこう。
本来彼とはもう関わりたくないんだ。いつボロを出してしまうかわからないし、憎まれ続けるのも身がもたないから。


家の住所だけ答えると私は外を向いた。それを見たバーボンも黙ってしまう。私が相手にしていないとわかったからだろうか、睨むようにこちらを度々見てきて居心地が悪い。


家に着くまでの我慢だ。もう私は彼に関わらない。そう決めたのだから。








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