漆黒の天使

□four
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明美さんが死んでからまだ間もない。だけどいつものように時間は流れていく。



『ウォッカ、どこに向かってるの?』


「………」


『……ジン』


「………」



2人とも黙りである。ジンの愛車のポルシェをウォッカが運転、いつも通りの光景だ。だけどそこに私が乗るというありえない光景が広がっている。
何処に向かうかもわからず、私の隣には不躾な黒いケースが。弄りたいけど怒られるからしない。



「降りろ」


『……!、ここって』



止まった車。ジンに言われて素直に降りると大きな駐車場が目に入る。
こんなに大きな駐車場がある所なんて少ししかない。



『……トロピカルランド』


「今日の取引場所だ。下見に行くぞ」



ウォッカにそう言われて首を傾げる。原作ではこの2人だけだったはずだ。何で私がそこにいる?


不審に思いながらも歩く。ジンを見てみると彼もこちらを見ていた。すぐに視線を逸らされたから特に何かいうつもりはないんだろう。


こんな黒ずくめの男達が遊園地で遊ぶなんて……人目を引きすぎて困る。そう思えば年頃の女である私を連れてくるのは妥当ってものだろう。
しかしこれは工藤新一が江戸川コナンになるという大切なシナリオのはずだ。止めるつもりはないが……丁度いいタイミングかもしれない。
組織を抜けるためのいいタイミング……



「おい、何をほうけている。さっさといくぞ」


『あ、待ってください』



トロピカルランドのゲートを通って先を行くジン達。2人の腕に絡みつくと何をしてるんだという風に睨まれる。
私を連れてきたのは怪しまれないためでしょう?とニヤついて聞けばジンは舌打ちをしただけだった。


明美さんとシェリーの3人で行きたいと言ってた時の事を思い出す。絶対ねと念を押してまで言ったのにその不安は現実のものとなった。
私は立ち止まっていたくない。明美さんのためにも進みたいのだ。彼女が組織から逃げてと言ったのはそれなりの考えがあってのことだろう。全てその通りにするわけではない。聞いた事、感じた事、全ての事を自分の中にいれ、考えて結論を出す。その一歩目が組織から離れるという事だ。


だとするともう2度とこんなことはできない。なら今楽しまないと損だろう。


こんな昼時に来る人なんてそうそういない。私達はゆったりとした足取りで園内を進んでいった。











「キャーーッ!!!!!!」




……どうしてこうなった。


そういえば最初から事件はあったか。すっかり忘れていた。
目の前には首がちょんぱされた死体が目の前に。叫んだのは私以外のジェットコースターに乗っていた女性達だ。



「!、魅也さん!?」


『蘭?』



そして同じようにジェットコースターに乗っていた蘭と工藤新一。何でこんな所にいるんだとでも言いたげだ。それはこっちのセリフだ。
今回ジェットコースターに乗るとなったのは取引現場の下見が目的らしい。なのにこんな事になるとは。


明美さんで血に慣れたと思っていたが内側が見えているのはやはり気持ちが悪い。顔が青白くなる感覚がして足元がふらつく。



「何をしている」


『ぁ……ごめんなさい』



ジンにぶつかる。凄まれてしまったが死体を目の前にした時の一般人の反応を目の前にして理解したようだ。そっと私を引き寄せると抱き締める形で死体を視界から切ってくれた。そうじゃないと怪しまれてしまうし、何より私が倒れてしまう。ジン、ナイス。


でもその姿を見て工藤新一は余計に顔を顰めている。何かブツブツと言っているようだが流石にそこまでは聞こえない。蘭のあの人が彼氏なのかな?という声は聞こえた。そう見えますか?不本意です。



原作ではお馴染みの目暮警部達がやってきて工藤新一と一緒に調査している。どうやら被害者の男性の隣に座っていた女性の鞄の中から包丁が出てきてとてつもなく怪しいとか。目暮警部のいうことに私は溜息をつく。女の力で男の首をちょんぱできるわけないでしょうに。


そっと覗き込むと工藤新一はまだ考え込んでいるようだ。私は犯人だと思われる違う女性を見つめる。きっと彼女だろう。原作でなんとなく覚えているがこれぐらい原作の知識がなくても状況証拠でなんとでも推理できる。



「………」


『っ……』



視線を感じて見てみると工藤新一がこちらを向いていた。さっとジンに隠れる。余計な事はしないでおこう。ここは傍観しているのがいい。








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