漆黒の天使

□three
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ーーーーー。。。



物語が始まるのは突然だった。



バンッ!!


「……何の真似だ」


『何の真似だじゃない!!』



机を叩いたのだ。ジンに詰め寄り睨みつけるが、彼はいつもと変わらずタバコをふかしている。


ここ数週間組織の動きがやけに騒がしいなとは思っていた。でもジンやウォッカに聞いてもなんでもないとはぐらかされるばかりで教えてもらえる気配はなく、仕方がないかと諦めていたのだ。


そんな時だった。明美さんを見なくなったのは。


今までは何か用事があって電話に出れなかったとしても後でメールで折り返してくれてのに、組織の人達が忙しくなったくらいからそれもなくなっていた。
不振には思っていたが彼女も組織の一員だから同じように忙しかったのだろうと思っていたのに、先程ジンが電話口で言った言葉に突発的に威嚇してしまったのだ。



『10億って……どういうこと』


「……チッ」



聞いていたのかという舌打ちだ。いつかの仕事に巻き込まれたときに見た10という数字を思い出す。
10億円事件が始まるのは工藤新一が小さくなってからのはずだったのに、それがすでに始まっている。


一気に頭の中が熱くなる。どうにかしなければならない。
今までだったら仕方がないと諦めていたが、もうそんな事は言えない。
明美さんは大切な親友なのだ。そんな彼女が殺されるのを見て見ぬ振りをするなんて無理に決まっている。


踵を返し走り出そうとするが、腕を掴まれ後ろにつんのめった。振り返ると当然の如くジンがいるのだが、まあ結構機嫌が悪いようだ。
手首が痺れるほどがっつり掴まれているが怯んだりしない。それよりも掴まれた事で再度思い出す。
明美さんは彼に殺されるのだ。



「どこに行くつもりだ」


『……明美さんを探します』


カチャ
「何故その女の名前が出る」



拳銃を構えて更に脅すが私はジンをキッと睨みつけて空いている左手で拳銃を払い除けた。
少し驚いた表情をしているジンを尻目に掴まれている右手も振りほどく。



『最近連絡がなかった。その件に関わっているのかも……大切な人なんです』


「………」


『すみません』



走り出す。ジンは追いかけて来なかったし、発砲もしなかった。


ビルから出ると携帯を取り出しニュースを見る。まだ事件は起きていないのか、いつも通り昨日の事件や話題のワード等が報じられている。


この事件について知っている事は大雑把だ。明美さんはジンに殺される。その場所は何処かの倉庫だ。本当にそれぐらいしか知らない。
明美さんと一緒に事件に関わっている2人も誰かわからない。2人いるって事しか覚えてないのだ。こんな事なら読み込んでおけばよかったと思ったが、誰が創作の世界に飛ぶと思うだろうか。思わないだろう。


どうしたものかと悩んでいると突然ニュース番組の速報が流れた。あまりの音に驚いて携帯を落としてしまう。
ニュースキャスターの声が籠って流れてきた。それは何者かが銀行へ乗り込み10億円相当を強奪したというニュース。顔が青ざめて行くのがわかった。


……でもまだだ。まだ大丈夫。時間はある。早く明美さんを探さないと。







私は無我夢中に探した。もう何日も経ってしまっている。
ヒントなんてひとつもないけど近辺にいるのは確かなのだ。殺されるのは何処かの倉庫。でも普段使われていないようなところだったから……



『あーもう!!』


「へ!?」


『え?』



声のした方を向いてみると蘭ちゃんが驚いた様子でこちらを見ていた。歩き回りながら考え事をしていたからだろうか、声をかけてくれていたのに気付かなかった。



「あの、大丈夫?顔色が……」


『顔?』



あの日血の気が引いてからそのままだったのか。触れてみると少し冷たい。



『ごめんなさい。ちょっと今は参ってしまって』


「……もしかして、このニュースのせいかな?」



蘭ちゃんは携帯を見せると10億円強奪事件の文字が目を貫く。思わず溜め息をついてしまった。



「やっぱり……この近くですから不安にもなるよね」


『何で蘭さんはここに?今日日曜日じゃ……』


「部活の練習だったの。でもこの事件があって危ないからって一度は学校に行ったんだけど追い返されちゃって」



道着を帯で結んで引っさげている彼女は逞しい。たしか空手だったっけ。



『じゃあ早く帰らないと危ないですよ』


「魅也もでしょう!とりあえず私の家においでよ。ここから近いし」


『いきなり行くのはご迷惑じゃ……』


「そんなことないよ!大歓迎だから!」



この世界の女性陣は少々押しが強いらしい。でも何でだろう?心地良い。








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