漆黒の天使

□two
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−−−−−。。。



『あ……おはようございますジン』


「………」



無視かいと心の中で去っていくジンにツッコむ。あの件からすでに3日経っていたがジンとは前にも増して他人行儀である。


その反動だろうか。明美さんと行動を共にする事が増えた。彼女は前にあった件に関しては何となくだが知っている。私が教えたのだから当たり前だ。渋い顔をされたから申し訳ないなとは思っている。



『本当に明美さんの彼氏さんだったんだ』


「まあね。彼には悪い事をしちゃった……」



ライの話題になった時であった。本当に彼氏なんだよねと聞いてみればそうだと肯定した明美さんによかったと安堵の息をついた。人の彼氏と寝るとか……そこまで悪女にはなりたくない。



『……でも悪い事ってどういうことですか?』


「………」



それ以上は聞いてほしくない、とでも言いたげな表情にそれ以上は聞くのをやめた。こんな真昼間のカフェで話す内容ではない。
しかし、車に戻って住宅街を走っている最中に海にいかない?と話しかけられる。特に断る理由もないので了承すると真っ直ぐ海へと向かった。




ザザーンと漣が聞こえる。潮風は髪の毛がバシバシになってしまうのであまり好きではない。だが今はこの空気が心地よい。それは……明美さんの表情がなんとも言えない優しい表情だったからだろう。


靴を脱いで手に持ち、チャプンと海の中に入っていく明美さん。私はそれを少し離れて眺める。しばらくそうしていたが何も言わない私に痺れを切らしたのか、明美さんは少し困ったように話し始めた。



「あの人と寝たの?」


『……はっ!?』



私、まだ17歳。まだ解禁していない年だというのに突然妙齢の女性に彼氏を寝とったのかと聞かれては驚かずにはいられない。


固まっていると肯定だと捉えたのか、悲しそうな表情で水平線を見つめた。



「でも仕方ないわよね。それが彼の仕事なんだから」


『明美さん……』



頭がズキリと痛んだ。何か思い出せそうな気がする。


気を失いそうになりながらも明美さんを見つめ続けた。すると私の異変に気がついたのか走り寄って来た。その時だった。




『……だから?』


「え?」



思い出した。


彼女は……ライに、赤井秀一に利用されたんだった。


ライはどこかの組織の一人でこの組織を壊滅させるために潜入捜査をしている。そして潜入するために明美さんを利用した。


そして明美さんは……死ぬ。


明美さんが仕事だから仕方がないといったのは自分を納得させるためだろうけど……きっと自分が利用されている事に気付いているんだ。


だからこんな表情をしているんだ。



「大丈夫?魅也。家に送りましょうか?」


『……うん』



久しぶりに聞いた私の名前は自分のものではないようでどこか他人行儀だ。
先に車に戻ってタオルを渡すとそのまま後部座席に寝転ぶ。


何か言いたげな明美さんだったが突然空気の変わった私に何も言えなかったのか、黙って車を走らせたのだった。



海に浮かぶ聖女のような彼女が瞼の裏に焼き付いている。もちろん悲しそうな横顔も。
ちゃんと否定すればよかったのだろう。でもそんな事よりも思い出した事が頭の中を支配して何も考えたくなかった。


初めてかもしれない。この世界で恐怖を感じた。


大切な人がいなくなってしまうかもしれない、そんな不安が一気に押し寄せる。


もう原作の話は思い出さない方がいいのかもしれない。残念な事に私は力が無い。守る事も救う事も出来ない。だったら知らないフリをしておいた方が気が楽だ。私は知らない。何も知らない。



「魅也、」


『………』


「変な事を言ってごめんなさい。貴方がそんな事をする子だなんて思ってないわ。私も当てられちゃったのかもね」



恋する女は盲目とでもいうのだろう。それほどライの事が好きなのだ。そこまで思われているのに利用しているだなんて何という男だ。ライに怒りが募る。



「……ねえ、私に何かあったらあの子と彼を、」
『嫌』



何を言われるかわかった。言い終わる前に拒否の意思を示した。


明美さんはそう言われるとわかっていたようだ。いつもと同じ優しい顔をしてありがとうと言う。
何がありがとうなんだろう。きっとお願いを聞いてくれると思っている。
でも私は何もしない。するわけないんだから。


そんな顔をしている私に明美さんはやっぱりいつも通り優しく笑うのだった。








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