美しい残酷さ
□vier
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845年、リヴァイと出会ってからもう一年がたった頃、私はリヴァイと大した喧嘩もせずに穏やかに訓練やら事務やらをして暮らしていた。
あとこの世界、冬が結構寒い。夏はあまり暑くないくせに。
私は今シガンシナ区の町並みを歩いていた。
リヴァイ達はいつも通り壁外調査に行っていて、その帰りを待っているのだ。
毎回リヴァイ達は帰ってくるから大丈夫だとは思うのだが、やはり心配である。今までは兵舎で素直に待っていられたがもう無理だ。
そうなってからはリヴァイ達をこの出かけていくシガンシナ区から見送り、帰ってくるまで近くの宿屋で泊まるということをしていた。
宿屋の主人と仲良くなってきたぐらいの頃、私はいつも通り暇つぶしをしながら帰りを待っていたのだった。
でも最近心配事が増えてきた。壁外調査にいった兵士がかなりの人数巨人に食われて帰ってくるのだ。もう何個お墓を作ったかわからないほど……
ハンジさんが前に言っていたように今までいいことがあった分、悪いことが起き始めている気がする。
「おーい嬢ちゃーん!!」
『?』
急に呼ばれて声のした方向を向くと、少し赤い顔をした駐屯兵団の兵士がこちらに手を振っていた。
『ハンネスさん!』
走り寄っていくとやっぱり酒臭いハンネスさんとその仲間達がいた。
ハンネスさんとは私がここでリヴァイ達を待つようになってから知り合った人だ。父親のような温厚で明るい性格でよく話しかけてくれた。
もう民衆や兵士達からは殆どフライア様と呼ばれるようになったのに、ハンネスさんは嬢ちゃんやら魅也と名前呼びをしてくれるのが仲良くなったきっかけだ。
『門兵なのにまたお酒飲んで……怒られますよ』
「それが怒られないんだよ」
『もう、まったく……あ、これよかったら食べてください』
「なんだかんだいって甘やかしてくれるんだから」
ハンネスさんに生麩の照り焼きを渡すと嬉しそうにそういった。
何でこんな酒のツマミを持ってんだと言われたが気にしないでほしい。笑って誤魔化した。
お店に売り込みに行こうとしてたなんてなんだか恥ずかしくて言えない。
そういえば味噌が完成したおかげで今兵舎では空前の味噌ブームだ。近々民衆にも売り出そうと思っている。
醤油は作り方がいまいちわからないから味噌の上澄みをとってなんちゃって醤油として使っている。
「嬢ちゃんがくれるツマミはいつも食べたことないぐらいうめえからな。壁外調査があるときは門兵の仕事が取り合いになるんだぞ」
『仕事してください』
「はいよ」
そういいながら笑うから強く怒れない。得な人柄だ。
すると突然ハンネスさんはおっとした顔をして少し向こうに行く。すると子供に絡んだ。やっぱり酔っ払いは良くないや。
「何泣いてんだ、エレン?」
「!!、ハ、ハンネスさん!?」
「ミカサに何か怒られたのか?」
「何でオレが泣くんだよ!!…って酒臭っ!!」
まあそうなるでしょうね。エレンと呼ばれた少年は鼻を覆って門兵を見つめる。
「また飲んでる……」
「お前らも一緒にどうだ?おーいツマミ残しとけよ〜」
「いや……あの、仕事は?」
「おう!今日は門兵だ!」
唖然としている少年に何も言わない隣にいる少女。多分先程ハンネスさんがミカサと呼んだ子だろう。
同じ東洋人だ……日本顔に近いし、なんか美人だ。羨ましい。将来が楽しみな子だ。
私はできるだけ気配を消してハンネスさんたちの会話に耳を傾けた。
「一日中ここにいるわけだからやがて腹が減り、喉も渇く。飲み物の中にたまたま酒が混じっていることは些細な問題に過ぎねえ」
たまたまじゃないし些細な問題じゃないよ。
「そんなんでいざってときに戦えんの!?」
「……いざって時って何だ?」
「何言ってんだよ、決まってんだろ!ヤツらが壁を壊して街に入ってきたときだよ!!!!」
急な大声に周りの人達は驚く。私も例外ではなかった。
ハンネスさんは頭に響いたのか頭を押さえて、周りの仲間は笑った。
「おいエレン!急に大声出すんじゃねえよ」
「ハッハッハ、元気だなあ医者のせがれ!」
「ヤツらが壁を壊すことがあったらそらしっかりするさ。しかしな、そんなことこの100年間で一度もないんだぜ」
「で、でも!!そーやって安心している時が危ないって父さんが言ってた!!」
「……まあ確かにそうかもなエレン。街の恩人のイェーガー先生には頭が上がらねぇんだけど……でもなぁ、兵士になれば壁の補強作業とかで壁の外をうろつくヤツらを見かける機会はあるんだが、ヤツらにこの50メートルの壁をどうにかできるとは思えねぇんだ」
「じゃあそもそもヤツらと戦う覚悟なんかねぇんだな!?」
「ねぇな!!」
「なっ、なんだよ!!もう“駐屯兵団”なんて名乗るのやめて“壁工事団”にしろよ!!!」
「それも悪くねえ!」
ハンネスさん大人気ない。そんなことばっかり言ってると将来その少年グレちゃうよ。
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