美しい残酷さ
□eins
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−−−−−。。。
『ん……』
しまった、寝てしまったか。
まだ辺りは薄暗いが、家の明かりがあちらこちらから漏れている。
『……家?』
私は自分の部屋で寝ていたはずだ。窓越しですらないたくさんの家々が明るいが、空には星も月もない。
ゆっくり起き上がると体が痛んだ。
見るとベッドもない。地べたに寝転がっていたようだ。
さっきまで寝ていた場所を黒光りするアイツが通った事でゾワッと身の毛がよだつ。それを抑えるように腕を摩ると感触がちゃんとして、夢じゃないとわかった。
『ここは……地下?』
地下にしては明るいが、地上しては暗い。それに所々から見える光。そこに繋がっている階段。
汚れた服を軽く払って階段を目指す。
ここが何処かなんて関係ない。とりあえず危険なのはわかる。こんな殺伐とした空気なんて初めて。
……だけど何故だろう、
『……いい』
今……興奮してる。
私はこの空気を楽しんでる。
人間としてどうかとは思うが、未だかつてないほどの生との密着。私が感じたことのないもの。
すごく楽しく感じてしまった。
階段まではそれほどかからなかった。が、あまり見慣れない格好をした変なおっちゃんが二人いる。話しかけるのは本当に嫌だが仕方がない。聞かなきゃなんともできないから。
『あ、あの……』
「なんだ姉ちゃん」
「上にいきたいのか?」
『……ここは何処ですか?』
恐る恐る話しかける私にポカンとしている男二人。しかし瞬時に状況理解ができたのかニンマリと笑った。
「そうかそうか……お前売られたんだな」
『え?』
「何処から逃げてきたんだ」
『いえ、そうではなくて……』
「上からわざわざ来るんだったらそれなりのがあるだろうが……見たところ一銭も持ってないようだな」
「顔を見たらわかるぜ。嘘はやめな」
人身売買があるんだろうか。とんでもない言葉が聞こえた。
顔を見たらわかるということはまだ垢抜けてない感じがするのだろう。
ってそんな悠長なことを言ってられない。
人身売買があるってことは無法地帯の可能性が高い。
『ここは何処ですか』
「そうか。売られたんだったら知らないかもしれないな」
「ここはウォール・シーナにある地下街だ。上の世界にいる巨人とやらが襲ってきたときに避難する場所だってよ。まあ今やお前みたいな可愛い姉ちゃんが売られてくるような無法地帯だよ」
ウォール・シーナとは何なのか。聞き慣れない言葉に理解が追いつかない。
うーんと考え込んでいると、急に後ろから重さが加わる。
驚いて固まっていると腕が巻き付いてきたんだと気付く。
「なーに、この子」
「お前か」
『あ、あの……』
「可愛い声してんじゃん。しかも東洋人か!!」
チャラい男の大きな声に思わずびくつく。
東洋人というところに食いついたが、この世界では東洋人が人気なのだろうか。ということは少なくともここは日本ではない?
グイッ
『!!?』
「こいつはもしかして純血か!?高く売れるぞ」
『いきなりなんですか』
「やめとけ、他の奴が買ったやつかもしれねえぞ」
「いやそれはない」
「何故だ?」
「純血の東洋人が売られるってゆーのにそんな情報一つも入ってきていない。おかしいとは思わねえか?」
「………」
「確かにな」
「仮に一切情報がもれないようにしたとしても関係ないがな」
男達は私にはわからないことをばかり言う。しかし空気が悪くなって来たことはわかる。
急いでチャラい男から離れようと動くが、肩に組まれていた腕が首を回ってしっかりと締め付けられた。
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