美しい残酷さ

□acht
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トロスト区奪還作戦から2日経った。



巨人の掃討も終わり、今からは兵士が総出で死人の確認と処理を行わなければならない。


日に照らされていた死体は既に腐敗が進んでいて、あちこちにハエが飛んでいる。覆い無しでは耐えれないほどの腐敗臭。




『!!?』



そこで見つけてしまった。ジャンが見つめている先に見知った顔がいたのだ。



『ジャン……』


「オイ……お前、マルコか……?」



ジャンの声に胸が締め付けられる。


変わり果てたマルコの姿。パッと見ではわからないほど汚れていて右半身を食われている。



「訓練兵、彼の名前がわかるのか?」


「見ねぇと思ったら……でも、こいつに限ってありえねぇ。……マルコ、何があった?」



女医の言葉を聞かずにジャンは狼狽え続ける。辺りを見回しては悔しそうに言葉を紡いだ。



「誰か、誰かこいつの最後を見た奴は……」


「彼の名前は?知ってたら早く答えなさい」



その言葉にムカついたのか、女医を睨むジャン。その間私はマルコの死体を眺めていた。



「わかるか訓練兵。岩で穴を塞いでからもう2日が経っている。それなのにまだ死体の回収が済んでない。このままでは伝染病が蔓延する恐れがある。二次災害は阻止しなくてはならない。仲間の死を嘆く時間はまだないんだよ。わかったか?」



女医の言葉にジャンは呆然としながらも言った。



「104期、訓練兵団所属、19班班長……マルコ・ボット」


「マルコか、名前がわかってよかった。作業を続けよう」



細かく言ったジャンだったが、女医はただ彼の名前を書いただけだった。それが余計にジャンの心を抉ったのだろう、絶望した目をしていた。


私は思わずマルコの心臓がある胸にそっと触れると、頭痛が走った。いつものあの光景だ。しかし死んでいるためかはっきり見えない。


ただ見えたのは激しく揺れる視界と巨人に食われるところだけだった。



『……何で?』



マルコは何で逃げなかった?立体機動装置が壊れていたわけでも……



『!?』



立体機動装置をつけていない……



まさか……まさか誰かに?


ゾッとして考えるのをやめた。誰か生きている人の立体機動装置が故障してマルコのをとったんだ。そう思おう。


じゃないと……私はこの壁の中で生きていけなくなる。



私は急いでその場から逃げた。


逃げた先にあったのは何かの粘膜に覆われた大きな塊。



「何ですかこれは……」



そういうサシャに最初気がつかなかった。



『サシャ……』


「姐さん……」



ふたりして奇妙な塊を見つめる。するとある兵士が教えてくれた。



「クッ……巨人が吐いた跡だ」


『吐いた?』


「ああ、奴らには消化器官がねぇんだろうから、人食って腹一杯になったらああやって吐いちまうんだと」


「そんな……」



慣れていない訓練兵にはツライものだろう。私だってこの塊は初めて見た。


誰が誰だか見分けもつかない塊から逃げるようにこの場から去った。



何処にいっても地獄なのは変わらない。



「ごめんなさい……ごめんなさい」


『アニ?』



ハッとしてこちらを見た彼女の表情は酷く怯えていた。



『大丈夫?』


「………」


『守れなかったから謝っているの?』


「………」


『アニは何も悪くないよ?』



私が何かを言えば言うほど表情は申し訳ないと言いたげに変わっていく。私はアニの頭を撫でた。



すると頭痛がした。いつものやつだ。でもかなりノイズが混じっている。


見えたのは遠くに見えるライナーとベルトルトとマルコだけ。それもノイズがありすぎて一瞬しか見えなかった。
これはあまりにも信憑性が少ない。



「謝っても仕方ないぞ。早く弔ってやるんだ」


『ライナー!』


「……あんなに訓練したのにな」



ライナーはアニにそういって作業に戻る。ベルトルトとアニも作業に戻ろうとするから聞いてみた。



『ライナー、ベルトルト、アニ』


「何だ?」
「何ですか?」
「何だい?」


『3人はマルコが最後どうなったか知らない?』


「「「!!?」」」



3人があまりにも驚くからこちらも驚きそうになるがなんとか平静を装う。



『さっきジャンがマルコのことを見つけて、最後を見た奴はいねぇのかって言ってたから。ショックだったんだろうね、誰にも看取られなかったのが』


「そうか、俺は知らないんだ。すまない」
「僕もだよ」
「……私もだ」


『そっか……』



心底残念そうにする私に安心したような表情を浮かべる3人。昔から何かチグハグさを感じると思っていたが……これは気のせいなんだろうか。



「魅也?」


『あ、ごめんアニ。マルコ、賢くて優しい子だったから……これでもショックなんだ』


「……そう」



笑っていうとアニはまた申し訳なさそうな顔をした。


私はその姿を見ることしかできなかった。








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