美しい残酷さ

□sieben
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『もう一個本命があるんでしょう?サッサと言いなさい。やりもしない選択肢でどうこう言ってる暇はない』


「……ああ。これはオレ程度が思いついた最終手段を判断材料として話したまでだ。あとはアルミンの判断に任せる」


「え?」


「オレだってさっきの話が現実性を欠いていることはわかってる。この巨人の力は兵団の元で計画的に機能させるのが一番有効なはずなんだ。無茶を言うが……アルミンがもしここでオレは脅威じゃないって駐屯兵団に説得できると言うなら、オレはそれを信じてそれに従う」


「!」


「それができないと言えば、さっきの最終手段を取る。あと15秒以内に決めてくれ。できるかできないか。オレはどっちでもお前の意見を尊重する」


『フフッ』


「魅也さん…?」


『何でそんなことを僕に任せるんだ〜って顔してたから』



驚いたようで固まるアルミン。貴方がもう一皮向けるときは今だ。



「5年前なんかお前がハンネスさんを呼んでくれなかったら、オレもミカサも巨人に食われて死んでたんだ。魅也が案内してくれたおかげで安全に避難できたしな」


「………」



アルミンは何か決心したように立ち上がる。説得することに決めたんだ。
その顔を見てほっとすると同時に力が抜けていく。



『……エレン、ミカサ』


「「?」」


『ごめん……もうダメだ…』


「「!?」」



ふたりの驚く顔を最後に目の前が真っ暗になった。
なんとなくだがアルミンの声は聞こえていた気がする。この3人だったら大丈夫なはずだ。
3人が揃えば……どんなことも乗り越えていけるだろう。




















『ん……』


「やはり見当たらんか……」


『ふぇ?』


「嬢ちゃんのような超絶美女の巨人になら食われてもいいんじゃがな」



次目覚めたときは何故か壁の上だった。
初めて聞いた声に驚いて変な声を出すと、私に話しかけた本人がこちらを向いた。



「一度嬢ちゃんと話してみたいと思っていたからの、連れてきてもらったんじゃ」



お髭を蓄えたなかなかの年の男性。



『……ドット・ピクシス司令?』


「お、知っておったか!」



駐屯兵団司令官であり人類領土南部最高責任者。
随分嬉しそうな顔をするなーと私の頭は現状を完全に理解していなかった。そんな私に笑いかけてくれるなんて、さすが生来の変人と言われているだけある。



「君がフライア様やらミューズ様と呼ばれておる魅也君だね」


『はい』


「うむ〜黒髪の美女と聞いていたんじゃがな。綺麗な銀白色の髪じゃ」


『………』


「それはこの若僧が巨人になれることと関係あるのかい?」


『……わからないです』



ピクシス司令はどっちとも取れない表情で私を見つめる。


少し笑ってアルミン達に向き直っちゃったけど。



『ここにいるということは説得成功したんですね』


「あぁ。物事の真意を見極める程度のことはできるつもりじゃ。お主らの命はワシが保証しよう」


『ピクシス司令がいなかったら私達木っ端微塵でしたね』


「そうじゃぞフライア様。お礼に呼び捨てで呼んでくれていいじゃぞ」


「魅也さん、それはさすがに……」


『じゃあピクシス』


「うえ!?」


「若い女子と話すのはいいの〜」



ただのエロジジイじゃないんですかね?



ピクシスはしばらく外を覗いていたから素朴な疑問をぶつけてみた。



『キッツはどうしたんですか?』


「あやつは班の編成をしておる。あんな小心者でも班長だからの」


『ハンネスさんとは大違いです。バンビみたいな性格だからこそ大切な部分はあるんでしょうけど』


「フライア様は聡明じゃな」


『食えないとは言われます』


「うむ、違いない」



ピクシスは少しだけ笑うとまたアルミンを見た。


隊の編成をしているのだから何か作戦を実行するのだろう。駐屯兵の微妙な顔つきに少し不安に駆られる。



『アルミン、貴方苦し紛れに何言ったの?』


「え!?」


「ホッホッホ!バレているようじゃな」



少し焦った様子のアルミン。余計なことを言ってしまったかもしれない。



「お主は先ほど“巨人の力”とやらを使えばこの街の奪還も可能だと申したな。あれは本当にそう思ったのか?それともフライア様の言ったように苦しまぎれの命乞いか?」


「それは……両方です」



アルミンははっきりそう答えた。



「あの時僕が言おうとしたことは巨人になったエレンが破壊された扉まであの大岩を運んで扉を塞ぐということでした」


「………」


「ただ単純に思いついただけですが、せめてエレンの持った力に現状を打開できる可能性を感じてもらえないかと……もちろん助かりたい一心ですが」


ピクシスはエレンの方を向くと未だに正座している彼の前にひざまづいた。



「エレン訓練兵よ……穴を塞ぐことができるのか?」



あっけらかんとした様子でいうピクシス。その姿は逆に気迫を感じるほどだった。



「塞いで見せます!!何があっても…!!」


「……そうか…よう言ったの!!お主は男じゃ!!」



ピクシスはそう言ってエレンの肩を叩くと、参謀を呼びたてる。どうやらトロスト区奪還作戦を立てるらしい。








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