CuteなSugar

□風桜車
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櫻葉【風桜車☆1】CuteなSugar




毎年、この時期にやっちゃうよね、オレ…。

アレルギーが強く出てしまう この季節。
鼻も喉も、冬場はずっと気を付けてはいるんだけど、3月頃になると時期外れのインフルエンザにかかる。


しょーちゃん、、遅刻しなかったかな…。


ベッドの中で熱を計る間、今朝のしょーちゃんのどたばたを思い出した。


37.7か…。


今朝、まだ熱が下がらなくて、しょーちゃんはひとりで支度をしていた。
相手が病気になっても、ギリギリまで休まないのが オレたちのルール。

子供じゃないから、そんなのは当然だけど、それだけじゃなかった。

会社も、会社の人たちも、オレたちのことを理解し配慮もしてくれている。
すごく恵まれた環境を与えてもらう変わりに、迷惑はかけたくない。

それが、しょーちゃんとオレの考え方だったんだ。


少し楽になった身体を起こすと、ベッドサイドのテーブルの上にワインクーラー。

ふふっ、、しょーちゃん、こんなことしてたんだ。

ワインクーラーの中は、氷が溶けた水の中にヨーグルトとプリンがプカプカしていた。


今朝、しょーちゃんが『ヨーグルトとプリンなら食べられる?』って聞いてくれて、寝ながら頷いて…。

きっと、キッチンまで行かずに、ベッドの中で食べられるように用意してくれたんだろうな。


しょーちゃん、、でもスプーンがないよ?


ふふっ、、、しょーちゃんのちょっと抜けたところも大好き。


少し楽になったから、ワインクーラーを片付けて、ヨーグルトでも食べようかな?と思ったら、寝室のドアが静かに開いた。



「あ、しょーちゃん?」



「起きてた?」



「うん、さっき。
ずっと寝てたみたいで…」



しょーちゃんは、ベッドまで歩み寄って、不自然に後ろに回していた手を前に持ってくると『はいっ!』って、オレにプレゼントをくれた。



「うわぁっ♪どうしたの?
これ、どうしたの?」



手に持たせてくれたのは風車だったんだ。


普通の風車じゃなくて、桜の花の形をしてる風車。


オレの地元には、この時期“桜祭り”というものがあった。
古くからある神社には、色々な種類の桜の木があって、神社と町内と、地元企業なんかが協力して行われていた。

一番先に花をつける種類の桜の咲き始めから、葉桜の季節まで、色々な催しがあったけど、その中でも、春休み中に開催される夜桜期間には、出店がたくさん立ち並んで子供たちの楽しみのひとつだったんだ。


その出店の名物とも言われるのが、この風車…風桜車…通称“かざくら”だった。

神社の階段の下、出店の灯りにキラキラと光っている“かざくら”は、少しの風で一斉に回り出す。

花弁に見立てられた5枚の羽は、淡い桜色なのに、光りが当たると貝殻みたいに虹色に光って、それを見るのが好きだった。


でも…男の子は買わない。
それを買うのは、大人か女の子って決まってた。



「雅紀、好きだっただろ?
出先で物産展やってたんだよ。
で、それがあって・・・」



「うん♪懐かしいね…
今年は、桜祭りに行きたいなぁ…」



「それ、売り物じゃなかったんだ。
だけど恋人が熱を出してるから、お見舞いにくれってごねてきた。」



「しょーちゃん?ふふっ、、
相変わらず、、しょーちゃんはしょーちゃんだね♪」



オレが“かざくら”を好きな理由は他にもあったんだ。





*あれは小学校5年が終わった春休みだった*


今年は、ワクワクしていた。
それは11歳になったから。


オレの地元の桜祭りは、地元の人たちが行うから、どこにいっても顔見知りの人ばかりだった。

でも、10歳までは大人と一緒って暗黙のルールがある。

11歳になったら、親が許せば子供だけで夜桜祭りに行けることになってた。


オレも去年までは、じーちゃんとしょーちゃんと、それから弟とか近所の小さい子も引き連れて、お祭りに行ってたけど。


今年からは、少し大人の仲間入り。


だから、春休みに入って、しょーちゃんと一緒にじーちゃんの畑を手伝って、夜桜祭りに持ってく小遣いも工面したんだ。


祭りの日は、出店で何か食べるものを買って、それが夕飯になるのも毎年の恒例。


かーちゃんも、ばーちゃんも、祭りの手伝いをしたり、裏で飲んだりしてるから、どのみち家に夕飯なんてないんだけど。


いつも、じーちゃんにあれ食べたい、これ食べたいって言ってたのが、今年からは、自分で好きに選べるんだよ♪


出店は夕方からなのに、昼を過ぎたころから、ワクワクして、ソワソワして…時計ばかり見ていた。





…つづく…
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