CuteなSugar

□胸いっぱいの愛
1ページ/4ページ

櫻葉【胸いっぱいの愛☆1】CuteなSugar




「また聴いてるの?」



そう問い掛けてくる しょーちゃんの顔は、半分照れ臭そうだけど、優しくて嬉しそうで、オレの大好きな顔。



「雨が降ると思い出すんだもん…」



その曲のCDのケースの中には、しょーちゃんが訳してくれた歌詞を書いた紙も入ってるんだけど。
何度も何度も読んだから、角が折れ、折り目は擦りきれて破れたり穴が空いたりしてた。

それでもオレの宝物。
すべてが大切な想い出で、その曲にも訳した歌詞にも しょーちゃんの想いがいっぱい詰まってるから。

しょーちゃんはオレの隣にしゃがみこむと、訳した紙を手にして『懐かしいな…』と言った。





*あれは高校2年の梅雨前だった*


オレが暴漢の被害にあって、しょーちゃんが復讐して犯人を捕まえて、二人で1週間学校を休んだ。

オレはその前から休んでたから、2週間…。


久しぶりに学校に行くと、しょーちゃんは何故かヒーロー扱いで、オレのことは暴漢じゃなくて“通り魔の被害にあった”ことになっていた。

みんなが事件を知ってることにビックリしてたら、ニノって友達から『変な噂が出る前に、先手で噂を流しましたから…』と言われて、なるほどって思った。

ニノは普段は静かで、眼鏡の向こう側の顔はよく読み取れないけど、話してみるといい奴なんだ。


オレの地元の小学校はひとつの学年に20人ぐらいしか居ない小さな学校だった。
中学は学年ごとに2クラスあったけど、ひとクラス30人に満たなくて、そんなに大きくはなかった。
まだ、田畑が多く残る地域で、同級生はみんな小さい時から知った顔ばかりなんだ。


だけど、高校に入学すると、ひとクラスに40人以上いて、学年に8クラスもある。


女子だって同じ制服なのに都会っぽい格好してる子ばかりだし、男子だって髪を染めたりピアスしてるヤツもいた。


だからなのか…。
地元から少し離れて、知った顔が少なくなったからなのか、オレは気後れして人見知りするようになったんだ。


その中でも、ニノは話しやすくて、いつも冷静で、オレのこと気にかけてくれていた。

もちろん、しょーちゃんだって、そうだけどさ?

うちの高校は、選択科によってクラス分けされてたから、しょーちゃんとは同じクラスだったけど。
オレと違って しょーちゃんは入学すぐから、クラスの人気者で誰とだって喋ることが出来て堂々としていた。
オレは、そんな しょーちゃんのお荷物にはなりたくなかったんだ。


でも、入学してしばらくは、しょーちゃんみたく、なかなか打ち解けられなくて、ひとりで座ってた時に声をかけてきたのが、ニノだ。



「ニノ、いつもありがと。」



「まぁ、御礼を言われるほどでは…」



「ってか、事件のこと知ってンの?」



「さすがに全部は知りませんよ?
ただ、親が役所に出入りしてるんで…小耳に挟んだだけです。」



「そっか…。」



大丈夫だったかとか、怪我は治ったのかとか、そういうことは聞いてこない。
けど、冷たいってわけじゃないんだ。
眼鏡の向こう側から、オレの表情や怪我の様子を観察して判断してる。



ニノのおかげで、2週間ぶりの学校は、なにもなくスタートできた。


そう、、できたはずだった。


まだ、部活も行ってなかったし、朝だって帰りだって しょーちゃんが一緒だったしさ?


だけど、外を歩くということが、こんなに怖いものだとは思わなかった。


学校から駅までの道程は、お店やゲーセンなんかもあって、ゲーセンから人が飛び出してきた時、咄嗟にかがみこんでいた。



「雅紀…?」



「あっ、、ごめん…なんでもない。」



誤魔化そうとしたけど、しょーちゃんにはすぐにバレてしまう。



「なんでもないわけないだろ?
雅紀、、震えてる。。。」



「大丈夫だから・・・行こっ?」



しょーちゃんは、少し難しい顔をしてオレを見てくる。


腑に落ちない、、そんな顔。


でも、その顔を気にしないようにして歩き出したら、しょーちゃんがオレの手を取ってきたんだ。

しょーちゃんを見ると、さっきの難しい顔から、スゲー、笑顔になっててさ。



「しょーちゃん?」



「だって、俺ら付き合ってんだから、いいじゃん?」



「えっ?でも、、誰かに見られちゃうよ?」



「見られたっていいだろ?」



いつも、しょーちゃんは堂々としていた。
そんな しょーちゃんが大好きだったけど、オレの中には不安な部分もあったんだ。





…つづく…
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ