Daylight
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櫻葉【156】◆Daylight◆
雅紀と知り合った頃、一度だけ聞いたことがある。
“本体”が具合が悪くなると、身体から出られなくなる、と。
雅紀は、まだ終わったわけじゃない。
……迎えに来て……
だから、あんなことを言ったのだろう。
“生身”の雅紀に直接呼び掛ければ、事態を変えられるかもしれない。
例え、それが、0.01%の確率しかなかったとしても………。
最後まで諦めない。
それは、雅紀とずっと約束してきたこと。
家に帰ると、荷物をぶん投げた。
バケツは風呂場に置いて、バスタオルを1枚取り出した。
「マニー?マニー?」
ミャッとソファの上で、首をもだげるマニー。
「雅紀が大変なんだ。
お前を留守番させられないからさ?
寒いけど、我慢しろよ?」
マニーを抱き上げて、スーっと息を吸い込む。
甘くてミルクのような雅紀の匂い。
ペットキャリーにタオルを敷き詰めて、その中にマニーを入れ、さらにマニーお気に入りのふわふわガーゼのタオルを掛けてやった。
「雅紀のためだからな。
いい子にしてろよ?」
この時間なら、始発を待つより、車で行ったほうが早い。
高速を飛ばしてるうちに、少しずつ頭が整理されてきたけど、
それは同時に不安も連れてきた。
……迎えに来て……
確かに、そう言った。
でも、、、。
…しょーちゃんを忘れないから……
雅紀は、そうも言っていた。
雅紀が目を覚ませば、俺のことは忘れてしまうのに。
雅紀が“忘れない”と言ったということは…。
いや、、考えるのはやめよう。
雅紀は、どちらの場合も想定して言ったとも考えられる。
雅紀は、、雅紀は、、
言葉の運びが苦手だった…
そうだろ?
山間の高速は、時々、対向車のヘッドライトが照らすだけで、
真っ黒い闇に吸い込まれるような空間が、自然と不安を連れてきて、視界を霞ませる。
だいたい他人の俺が、病院に入れるかどうかだって、行ってみないとわからない。
雅紀は、何か言いたかったに違いない。
きっと、そこにルールが邪魔をして、
それで、あんな言葉を残したんだ。
雅紀はいつも“ルール”のことを気にしていたじゃないか!
最後は、自分に言い聞かせるようにして、ただ高速に走り抜けた。
…つづく…