Daylight
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櫻葉【153】◆Daylight◆
一通り、写真を楽しんだ後は、線香花火に火を入れた。
雅紀は、パチパチと弾ける中心の“小さな球”の下に手を持っていく。
雅紀の瞳に、そのオレンジ色の光りが入り込んで、
手を伸ばせば、触れるんじゃないかと思えるほど、“魂”はリアルだった。
「雅紀、それ見てると怖いんだよ…」
花火の“小さな球”は、やがて耐えきれなくなると、
小さく揺れながら紐から離れて地面を黒く焦がした。
雅紀は自分の掌を透けて落ちていく“小さな球”を楽しそうに見ていた。
「ふひゃひゃ♪
こんなこと出来るの、今だけだもん♪」
「まぁな…
わかってても、落ちる瞬間、ヒヤっとするんだよ。」
花火も終わりに近付いた頃、小雪がチラつき出した。
一段と冷えた空気に、マフラーをしっかりと巻き直す。
「やっぱり、、降ってきたな…」
「積もらないほうがいいね。」
「なんで?
雅紀は雪、嫌いなの?」
「ううん…
ただ、積もったらさ?
積もったら大変じゃん…
大人になったらさ、雪って大変じゃん…」
橋が屋根になってる部分、ギリギリまで歩いて行くと、
雅紀は両手を広げて、切なげに夜空を仰いだんだ。
大人になったら、、、か。
その言葉は、なんだか子供時代に残した忘れ物を取り返したいような言い方だった。
「雅紀、、、。
大人になっても花火が楽しいんだから。
雪が積もったら、雪合戦したり、雪だるま作ったり…
どんなに大人になったって、
雪が好きなままいられるんじゃないか?」
「しょーちゃん・・・・」
「積もってたら、明日は雪合戦だな…」
雅紀は、コクンと頷いて、俺の側に駆け寄ってくると、残りの線香花火に手を伸ばす。。
「あと3本あるから、しょーちゃんが1本で、オレが1本…」
「あと1本は?」
「明日、、、、
晴れたら、明日やろ?」
そう言うと、最後の1本を俺のコートのポケットへ押し込んだ。
最後の1本に火を入れて、どっちが長く“小さな球”を落とさないか競走する。
「オレ、負けないよっ♪」
「俺だって…」
勝負だからと、そんなことを言ったけど、
俺は、負けて良かったんだ。
だって、今日は雅紀の誕生日なんだから。
雅紀、今日の主役はお前なんだ。
いや……
俺の中では、一生、お前が主役なんだよ。
…つづく…