Daylight
□【151】〜
2ページ/14ページ
櫻葉【152】◆Daylight◆
バケツの水をチャプチャプと跳ねさせながら、河原までやってきて、橋の下に潜り込んだ。
ここなら、花火が“宙に浮いて”いても、気付かれることはないだろう。
「ここ久しぶりに来た…
マニーちゃんに出会うまでは、
たまに散歩してたから。」
もしかしたら“魂”の人生とやらも、楽じゃないのかもしれない。
なんの生産性もない毎日というのは、
時間が有り余って有り難いということばかりじゃないんだろう。
そういった点では、マニーは、雅紀に“生き甲斐”に近いものを、もたらしてくれたのかもな。
「俺も、めったに来ないなぁ…」
駅とは方角も違うし、買い物は車だし、あえて“河原”に用事はなかった。
雅紀がいるだけで、広がる世界がある。
俺は、花火を準備する雅紀の隣で、
カメラを三脚にセットした。
もしかしたら、楽しい写真が撮れるかもしれないと。
「しょーちゃん?
写真も撮るの?」
「面白いの撮れるぞ…
楽しみにしてろよ?」
そわそわと花火を手にする雅紀の横で、ロウソクに火を入れる。
「雅紀、火がついたらさ、、、
カメラの前で…
ちょうど、その辺りな?
花火をゆっくり動かしてみて?」
「わかった♪」
雅紀が手にした花火は、火がつくと同時にシューっと音を立てて、色とりどりの火花が舞い散る。
雅紀は、カメラの前に行くと、それをユラユラと揺らし始めた。
「しょーちゃんっっ♪
すっごく綺麗だねーっ♪♪」
やがて火が消え、辺りはシンとする。
「ちょっと、見てみる?」
カメラの画像をチェックすると、
雅紀がユラユラと描いたラインが、光りで浮かび上がっていた。
「わあっ♪
すごい!これ、他にも出来る?」
「うまくすれば、文字とか記号ぐらいなら書けるかもな…」
「しょーちゃん、やろやろっ♪」
今日は、雅紀の誕生日。
雅紀に、美味しい食事や形に残るものをプレゼント出来なかったけど。
いつか、この写真を見て、生きた雅紀に“初めて過ごした誕生日”のことを話してやりたかったんだ。
それから二人で花火を持って、たくさんの写真を撮った。
ハートの形や、雅紀が一文字ずつ、何かを書いたんだけど、
結局はぐちゃぐちゃになったもの。
雅紀は写真には写らないけど、
花火のアートは、間違いなく、雅紀が作り出したもの。
俺は、まだ、どこかで…
雅紀が存在しているという“証”が欲しかったのかもしれない。
…つづく…