Daylight
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櫻葉【30】◆Daylight◆
それから雅紀はほぼ毎晩やってきて夕飯を作って待っていてくれた。
自信がないと言っていたけど、どれも美味しくて、味覚がないなんて思えないほど。
実家が料理屋だと言ってたし、長年の勘が備わってるのかもな。
夜はというと、雅紀は俺のベッドで眠りについた。
あの抱き枕を抱えて。
不思議と抱き枕は雅紀の身体の中に透けて入ることはなかったんだ。
一度、雅紀が寝てる時に抱き枕を引っ張ってみたら、雅紀がギューっと力を込めて離さなかった。
だから、今度は雅紀にギューっと押し付けてみたけど、身体の中に埋まることはなくて抱き枕が凹んだだけ。
それと最初の頃は、朝起きたら雅紀は居ない状態だった。
途中から、いつ居なくなるんだろう、と観察することにしたんだ。
多分だけど、“意識”みたいなものが完全に俺の部屋から無くなって、そのタイミングで雅紀はスーっと消えていく。
抱き枕だけを残して。
最初はね、最初は、居なくなる時間や消える仕組みが知りたかった。
けれど、居なくなるまでに1時間か、長くて2時間だとわかってからは、雅紀の寝顔を見ていたくて起きているようになっていく。
抱き締められないし、寝顔に触れることも出来ないけど。
今の俺には、寝顔を見つめるだけが精一杯だけど、少しでも雅紀の存在を確認したかったから。
雅紀がスーっと消えて、残された抱き枕を抱き締める。
そこには、雅紀の匂いも体温も残ってないけど、雅紀の形がほんのりとあったんだ。
…つづく…