シミュレーテッドリアリティ 1

□海にナンパはつきものです。
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夏休みも後半に入り、7月にジリジリと照りつけていた太陽が更に肌を刺すように輝いていた。

私はいつも通り、家でゴロゴロと____


プルルルル、プルルルル…



『電話……か、珍しいな、ヒル魔はいつもメールで呼び出してくるのに』



ケータイを開き、誰からかかってきているかも見ずに耳に押し当てる。



『もしもし…』

「よお」

『…おかけになった電話は現在電話に取れない状況にあります、ピーという音のあとにお名前と要件をお話くだs』

「殺すぞ」

『何の用だよ阿含……』



二言目には殺すぞしか言わないなコイツ…

せっかくの私のサマーライフ(笑)が台無しになりそうな予感しかしないわ…



「今暇だろ」

『疑問形ですらないのかよ…』

「ちょっと神奈川来いよ」

『ヤダ、暑っつい』

「お前のお友達がナンパされてんぞ」



………私の友達?



『神奈川に友達いないんだけど、雲水以外』

「黒葛魅音つってた」

『あん!?なんで魅音が神奈川いるんだよ!?』

「んなもん俺が知るかよ、つーか来いよ、助けといてやるからよ」

『ぐっ………すぐに行く…』



なんで魅音が神奈川にいるんだ…

てか、なんで魅音のこと知ってるんだ阿含。

雲水から聞いたのか?



『…自問自答してる場合じゃねぇ…』



魅音が阿含にラブホとかに連れてかれる前に神奈川行かねば…

つか遠いわ神奈川…電車でも30分以上かかるだろ…

こんな猛暑日に外になんて出たくなかったが…仕方あるまい。


急いで出掛ける用意をし、走って駅まで向かった。



____

_______

____________…



『………はぁ…』



阿含に言われた場所まで走り、着いたのはいいが…

目の前には海。

ここは海水浴場らしかった、ついでに夏休みだからか人が多い。



『……こういう…人が多いとこ来ると欲視力的な問題で気持ち悪くなるんだが…』



なるべく人の視界を奪わないように、出来るだけ意識しないでおこう。


ケータイを取り出し、阿含に電話をかける。



「よお〇〇ちゃん、来たか?」

『人混み酔いしそうだから迎えに来て阿含』

「あ〜?今どこにいんだ?」

『えーっと……』



目印になりそうな建物の名前だけ伝え、日陰に移って休む。



『魅音……大丈夫だろうか…』



まさか本当はいませんでした〜…なんてことはないだろうな…

魅音の名前聞いて咄嗟に飛び出して来てしまったが、迂闊だっただろうか。



「ひゅ〜、かわい子ちゃんめっけ!」

「なあなあ、君1人なの?俺らと遊ばね?」

『………』



勘弁してくれ。



「この辺じゃ見かけない子だよねぇ〜、どっから来たの?」

『………』

「おっとクール系?それともちょっと怖い?」

「ぎゃはは!」



挟まれた…

別に怖くも何ともないし、早いとこどっか行ってくんないかなぁ…


身の保証が出来かねる。



「ねーねー、黙りしてないで話そーよー」

「もしかして彼氏待ちだった?君可愛いもんねぇ」



髪を触ろうとしてきたので、その手を払う。



『触るな』

「おっとぉ?強気だねぇ、そこんとこも可愛いけど…女の子はもうちょっと弱々しくしないと可愛げがなくなっちゃうよ?」



そんなもんはいらん。

と言うか……あーあ……どうしてくれる…


私の視線の先には、後ろに阿修羅を構えた阿含がニコニコしながら立っていた。



『………私に殺されるか、私のツレに殺されるか、選ばせてやろう』

「はあ?」

「意味わかんねぇけど、君みたいな女の子に何が出来るって?」



ドンッと顔の横に手を付かれ、いわゆる壁ドンをされる。

ついでにグッと距離を近付けてくる男に殺意が沸いた。



『どうなっても知らんぞ』

「だぁかぁらぁ、君みたいな女の子に何が____」

「ねえ、面白そうな話してるね、俺も交ぜてよ」

「ああ?なんだよテメェ…は………っ!!!」

「こっ…金剛…阿含……!」



いつの間にか男どもの後ろに立っていた阿含は、2人の肩に腕を回す。



「ところでその子、俺のツレなんだけど…この子がなんかしちゃった?」

「いっいえ…!」

「ななな、何も…!!」



顔を真っ青にして縮こまる男どもは、相当阿含が怖い様子。


まあ、もうこの頃には破戒生徒だったのだろう。

百年に一人の天才で、喧嘩もしょっちゅうやってるのだろうから、知名度は抜群なはずだ。



「そっかそっか、ところで俺の目からはこの子をナンパしてるように見えたんだけど、まさか俺の女に手を出そうとなんか……してないよね?」

「「ヒィィィイイイイイイ!!!!」」



口調はキレイな阿含、顔は笑顔だが阿修羅。

2人は助けを求めるようにコチラを見てきたが、私は一度忠告しただろうて。


フイっと視線を逸らす。



「すすすすすみませんでしたぁぁぁ!!」

「もうしないので許してください!!」

「ん〜…」



少しだけ考える素振りをし、阿含は2人から腕を離す。

2人はホッとするが___


バキッ ドゴッ


阿含に腹を思い切り殴られていた。

阿含のパンチをモロに食らった2人はもちろん撃沈、くわばらくわばら。



『…容赦ないな…』

「ケッ、変なのに捕まってんじゃねーよ」

『気分が優れなくてね、阿含もいたし、何とかしてくれるだろうと』

「………チッ、おら行くぞ」



ドカッとへたりこんでる男どもを蹴り、先に行く阿含。


行き先くらい教えてくれても…

てか、魅音はどこだ魅音は。



『阿含、魅音は…』

「あ?知らねーよ、急に弟がーっつって帰りやがった」

『へ、へぇ…』



嘘をついている訳じゃなさそうだけど…

うーん、だけど魅音って弟いたっけ?



『……魅音いないなら私帰っていい?』

「デートしようぜデート」

『いやぁ…ちょっと気分が…』

「……ぁんだよ、お前マジで体調悪ぃのか」



立ち止まる阿含につられ、私も立ち止まる。

ちょっとだけ振り返った阿含の横顔が、少し拗ねた子供みたいに見えたのは、私の見間違いだろうか。



「気合で治せ」

『んな無茶な…』



歩き始めた阿含を追うように、一歩踏み出した瞬間。

太陽の光が海に反射し、一瞬だけ眩暈がした。

その、一瞬で____



『っっっ!!!!』



思わぬところで欲視力(パラサイトシーイング)≠フ発動。

海水浴場に来ている人間の視界を有無を言わさず奪う。

グラッと世界が回り、思わず倒れ込む。



『____っ……__っっ!!』



声にならない悲鳴をあげる。

グルグルと視界が回る。


気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。


回る世界で、私はあのクソ神が笑っているような気がして、心底この世界に来てしまったことを恨んだ。
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