シミュレーテッドリアリティ 1

□足の速い男の子
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なんて言うか最近、全力疾走することが多くなったなと。

これまた全力疾走しながら思った。


後ろを振り向けば、私と同じく全力疾走してるであろう青年…



『怖!怖いから!!話を聞いてほしいなら止まれよ!!』

「……」



ああ、私は何で……


















進清十郎に追われているんだろうか。



事の始まりは何だったか…

学校近くの河川敷で自身の身体能力の高さはどれ位あるのかという興味本位から始まったはず。

走り方はセナくんが陸くんに教わってたやり方を実践してみた。


まあ、そんな練習しなくともすぐに出来てしまったのだが。


それを運悪くこの男に見られていたって感じのはずだったんだが…



『はぁ…っ』



ため息出るわ。

こんな形でのエンカウントはもうしたかないんだけど。


徐々にスピードを落として距離を詰まらせる。



『何か、御用で?』

「……俺と同等の走りの速い女性を見たのが初めてだった…」

『あ、うん、そう』

「すまん、怖がらせるつもりは……」



あ、いい子だ。

いや、進がいい子なのが昔からなのは知ってたけども。



『何か聞きたいことでも?』

「フォームが綺麗だったから教えを請おうと思った」

『…そ、そう…』



これアレだ…トライデントタックル覚える為に陸にグースステップ教わった時と同じだ…

技術のある者に対して恥を偲んで(いるかは定かではないけど)教えを乞う。

ただひたむきに努力を重ねる、努力出来る天才。



『いやぁ…私は独学?だから、ちゃんと教えられる人に教わった方がいいと思うぞ?いるんだろ?君には…フォーム綺麗だし…』

「監督はいるが…」

『じゃあその人にちゃんと教わっときな、変に私のスタイル取り込んで折角の綺麗なフォームが崩れたらダメでしょ』

「技術ある者の意見は取り込みたい」



ダメだこの子真っ直ぐ過ぎて直視出来ない…

そんな純粋な目を向けないで欲しい…私は私で陸くんの話をぶっつけ本番で今やってみただけなんだよ…

技術もクソもあったもんじゃないんだよ……



『ほ、ほら、私独学で感覚的だから、上手く教えられないと言うか…』

「ではついて行っても構わないだろうか」

『はい?』

「見て自分で解釈し学ぶ」



…………つまり、私はこのままランニング続行?



『あー……君、名前は?』

「進だ、進清十郎」

『私は●●〇〇、泥門高校の1年』

「俺は王城高校1年だ」



…あ、そうだったっけ。

てっきりセナくんと同い年だと勝手に思ってちゃった、思い込みって怖い。


私の記憶力どうした、もうボケたか。

いやでもだって主人公のライバルって言ったら同学年がセオリーじゃん??



『…進くんは何かスポーツやってるの?


「アメフトをやっている」

『へぇ…ポジションは?』

「ラインバックだ、アメフトわかるのか?」

『観るの専門だけど』



絶対に、私は高校ではアメフトはやらない。



『40ヤード何秒?』

「4.6秒だ」



今はまだそんなもんなのか。

いやでもあの防具着けての4.6秒ってことは…実際はもっと速いか。



「●●は何のスポーツをやっている?」

『え、いや私何もやってない』

「…嘘をつくな」



キッ…と睨まれた。


そう言えば進は人を筋肉で判断してるんだっけ…

つまり今の私はほぼ完成されたスポーツマンの身体をしてるってことになるか。



『あー、今はやってない、走り込みとかは続けてるけどってこと(嘘)』

「そうだったのか、すまん」

『いや私のが言葉足らずで(しかも嘘まで吐いて)ごめん』

「……何をやっていたんだ?」

『ええっと……わかるかなぁ…スカッシュって言う競技なんだけど…』



この時代にもう出来てたかは不明!



「スカッシュ……テニスに近い、壁にボールを交互に当てるアレか」

『あ、よかった知ってたか』



今心底よかったって思ったよ。

私の居た時代、世界の日本でもマイナースポーツだったし。



『アレ、反射神経と状況判断力鍛えられるからオススメ』

「なるほど、やってみる価値はありそうだな」

『反射神経だけ鍛えたいならスーパーボールとか使ってでも出来るぞ』



あれだ、超弾性に優れたのスーパーボール。



『何も無い少し狭い部屋でスーパーボールを超弾させてそれを避けるだけ、それだけだけど思ってる以上に難しい』

「それはキャッチしていいのか?」

『スーパーボールの数によるかねぇ、少ないなら避けるだけ、多いならキャッチしてもいいと思うけど…そんな暇はないってのが正直なとこだ』



超スピードで乱反射しまくる無数のスーパーボールをキャッチなんて出来るはずがない。

それこそ全てのスーパーボールの反射率を計算しない限りは。

それも一瞬で、コンマで弾き出さないといけない計算。



『一つくらいならキャッチ出来るかも知れないけど、キャッチした瞬間別のボールの餌食になって、次々に当たって全身痣だらけになっちまうぜ?』

「…それは…経験談か?」

『私はそんな無謀はまだやらかさないだけの理性はある』



痛いのやだし。



「……」

『そんな真面目に考えなくていいだろ…』

「いや、やれることはやってみねば成長出来ん」

『打倒神龍寺ナーガって?』

「うむ……む?何故知っている?」

『いや有名なとこじゃん神龍寺、アメフトでも何でも』



なんでも、とは言ったけど…まあ、いいか。

有名だし。



「……●●はこの後予定はあるのか?」

『ないっちゃないけど…』

「そうか、ならば王城に来ないか?」



………why?



「ウチなら設備も他よりいいだろう、走りを見てみたい」

『………拒否権は』

「では次会った時に…」



何がなんでも私の走りを見たいのかよ…



『…断っておくが、私は走り方は完全に自己流、専門でもなかったし、私のそれが君にどういう影響与えるかも正直わからん』

「…」

『それでもいいなら、今日だけ付き合ってやる』

「わかった、では行くぞ」



…ごめんよ、進…

私がこんな変な身体さえしてなければ興味を抱くことはなかったろうに…


先を走る進の背中から、私はそっと目を逸らした。
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