シミュレーテッドリアリティ 1
□練習試合
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ヒル魔に言われた通り、練習試合を観に来た。
泥門高校に制服で。
「来たか糞◎◎」
『気分と言うか、観てみたかったから』
「ベンチ来い」
『へいへい』
ラッキー、間近で観れる。
グラウンドを見渡すと、相手選手らが監督の周りを囲うように立っていた。
キィンと欲視力を発動しておく。
『……完全に舐めなれてそうだなぁ』
「だろうな」
舐めなれてそうって言うか、舐められてんだけどね。
ヒル魔の脅迫で練習試合を組まされたんだろう、ご愁傷様。
「糞◎◎、何か分かり次第俺に伝えろ」
『…とりあえず、栗田くんには3人がかりで来るみたい、59番、71番、32番…59番だけ正レギュラー、あとは準かねぇ…』
「……なんでわかる」
『目が良いから、読唇術は得意』
欲視力で選手目線で監督を見てればわかる。
にしてもこの目を借りてる選手、監督のことよく思ってないらしい、どうでもいいけど。
『パスがないって思われてるけど、パスないのか?』
「ねぇよ、ウチにあんのはまだマシなランくれぇだ」
『バスケ部とかバレー部いない訳?』
「バスケ部もバレー部も楕円形のボール取り慣れてねぇ、無駄だ」
『ウチにあるのはランと栗田くん中心の中央突破くらいか…あとはムサシくんのキック…きっついなぁ』
ベンチに置いてあったノートに敵の作戦やフォーメーションを書いていく。
ヒル魔や栗田、ムサシなら分かるだろうけど、素人には何が書いてあるのかサッパリだろう。
『バレー部はいる?』
「2人」
『奴さん、パス中心でやってくるからインターセプト出来たら最高だけど…まあ、叩き落とすくらいなら出来るでしょ、タッパあんなら尚最高だな、今度からバレー部はポジションがミドルブロッカーの奴を連れてくるべきだね』
ボールペンで手遊びしながら相手チームを見る。
『ランはやるなら直進慣れしてる陸上部よりも相手を抜き去る技術に長けたバスケ部のがいい、足速い奴もいるだろうしね、でも陸上部のエース級なら足はかなり速いし期待値高いから普通に入れていいと思う』
「他は」
『ラインには栗田くん中心に柔道部を入れておくといい、彼らはいつも取っ組み合い……失礼、組手をしてるから相手の重心移動には敏感に反応できる』
赤羽のスパイダーポイズン的なね、重心移動って結構強みになれる手だ。
柔道部と…あとは空手部とか。
体幹鍛えられてる奴らを置かないと怪我するからなぁ。
アメフトは怪我が付き物なスポーツだけど、なるべく怪我はさせたくないし。
『あとは試合の流れを見ながら少しずつシャッフルしていくしかないかねぇ、こちらが対応出来るって言うのが分かったら向こうも作戦変えてくんだろ』
本当にこっちが対応出来るかは置いといて、だけども。
世の中そんな甘くはねぇだろうし。
「糞◎◎、てめぇマネやれ」
『断る、最初にやらないって言っただろ、帰るぞ』
「チッ!!」
舌打ちしたってやらないものはやらない。
私は誰になんと言われようとマネージャーにはならない。
『アメフト経験者が少ない中でやれる事なんて限られてんだ、出せるカードで戦うしかない、本命の部活もあんだし怪我はさせたくないねぇ』
「ンなもん知るか」
『来てくれてる奴に失礼だぞ、本当にどうでも良かったら脅迫されても来ねぇよ普通』
「「「(言いふらされんのはヤダから来てるだけ何だけど…)」」」
嘘でもいいから頷いとけや馬鹿者共。
「あっ!●●さん来てくれたんだね!!」
『まあ、名前置かせて貰ってるし』
「えへへ、嬉しいや」
ニコーと笑う栗田の笑みが伝染し、私もふと笑う。
『それで?ヒル魔くんはどんな指示が欲しいって?』
「指示じゃねぇよ」
『へいへい、始めはパス中心にやってくるよ、栗田くんが止められないだろうからロングパスは早々ないかねぇ、短いパスで確実に進めてくるかな』
ルートを欲視力で見た通りに全部紙に書き出す。
ピッとヒル魔に差し出せば、難しい顔をされた。
「キメェ」
『なんとでも』
「……が、悪くねぇ」
ニタリと笑って助っ人部員に指示を飛ばすヒル魔。
まあ、恐らくだけど…
『勝てねぇな…』
ボソリと呟いたその言葉は、誰の耳にも届くことは無かった。