シミュレーテッドリアリティ 1

□この作品の主人公
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ガシャンガシャンと何がぶつかるような音がグラウンドに響く。

まあ、言わずもがな、栗田だろう。


グラウンドに向かえば栗田だけがスレッド練習をしていて、ヒル魔は何故かいない。

まあ、奴が練習をサボるとは思えないから、大方部室でパソコンと格闘でもしてるのだろう。



『おつー』

「あれ?●●さん?」

『頼まれたもの買ってきた』



ドサッと荷物を降ろす。



「うひゃー、こんなに一気に買ってきたの?ごめんね、僕も手伝えばよかったや」

『いや別にそこまで大変じゃなかったし』



テーピングやらなんやらは、絶対に必要なものだろうしな。

そこまで重くもなかったし。



『ヒル魔くんは?』

「ヒル魔はライス君取りに行ってる!」

『………ライス君?』



ライス君てアレか、動かないレシーバー。



「木の板で作ったやつで、それをレシーバーに見立ててヒル魔がボール投げてんだけど、やっぱり動かないからヒル魔はちょっとした精度しか鍛えられないって言ってたよ」

『難儀なことだな』

「ヒル魔、すごい上手いのにキャッチ出来る人がいないから、宝の持ち腐れになっちゃってるんだ」

『レシーバーねぇ…』



まあ、スポーツで楕円型ボール使うのアメフトやラグビーぐらいだもんな…

桜庭やモン太はよくもまあ取れるもんだ。



「おう糞◎◎、買ってきたか」

『あ、ヒル魔くん、それが例のライス君ってやつか』



ヒル魔に引き摺られてライス君登場。



「糞◎◎、ちょっとボール投げてみろ」

『なんで?』

「いいからさっさとやりやがれ!!!」



なんという理不尽。

説明もなしにいきなり投げろとか…


ライス君を引き摺り、ヒル魔は離れて行く。



「この辺でいいだろ」

「えー、ヒル魔ぁ、遠くない?●●さん初心者なんだよ?」

「糞◎◎、投げてみろ」



栗田の話を無視してさっさと投げろと言い放つヒル魔。


お前の顔面目掛けて投げてやろうかこの野郎。

にしても、離されると意外にも的が小さく見えるな…

動かないライス君でさえこれなんだから、動くレシーバーに向かって投げるのは更に難しいだろう。

邪魔も入るだろうし…すごいな、みんな。



「…糞デブ」

「え?」



小声で栗田に話しかけるヒル魔。



「アイツが寸分の狂いもなく入れやがったら…女だろうがなんだろうが試合に出すぞ」

「えぇえ…でも、ポジションはどこにするの?」

「クォーターバックは譲りたかねぇが…いざとなったら……いや、ダブルクォーターバックってのもおもしれぇな」

「それって…!」

「お株を奪うのがウチのやり方だ」



ニタァと笑うヒル魔に、栗田は〇〇に同情した。



『いくぞー』

「早くしろ」

「無理しなくていいからねー!」



ボールを持ってヒル魔のように、見様見真似で構える。


ふんわり投げても入らないだろうし、ヒル魔の必殺技、デビルレーザーバレットみたいに投げるしかないか。

クソ神のせいで運極状態だから、入りはするだろう。

しかし、入ったら強制試合出場になるらしいから…入れない。



『よっこら…せっくす!』

「変な掛け声すんじゃねぇよ!!!」



風を切って飛んで行くボール。

そしてそのまま……


バキッ!!



『あ、ライス君の頭潰れた』

「チッ…だがまあ女でここまで投げれりゃ構わねーだろ」

「うひゃ〜、すごいね●●さん」



ライス君の頭に向かって投げたボールは見事、ライス君の頭の場所にぶつかった。

木が少し凹んでる気がするが…気のせいだろ、木だけに。



『ふぁあ…さて、もういいか?私は帰るぞ』

「その荷物だけ部室に運んどけ」

「えぇえー…重たそうだから僕が持ってくよ」

『おー、ありがと』



パソコンで何やら作業を始めるヒル魔を尻目に、私は栗田にお礼を言ってから帰った。










______________………


「ねえ、ヒル魔ぁ」

「あ?んだよ」

「…この袋、ヒル魔持てる?」

「はあ?」

「●●さんが買ってきてくれたやつだよ、僕ビックリしちゃった」



栗田に勧められ、袋を持つ…否、持とうとしたヒル魔。

その重さに少しだけ驚く。



「あ〜?んだコレ、何キロあんだ?」

「わかんないけど、女の子が持てる重さじゃなさそうだよね、僕らならまだしも」

「つか、余計なモンまで買ってきやがったなあの糞◎◎!!」

「買ってきてもらったのにそんなこと言えるのヒル魔くらいだよ…」



ガクッと肩を落とす栗田。



「チッ……糞デブ、アイツだけは他の部活に取られんなよ」

「え?」



ドカッと椅子に座るヒル魔。



「50mを6秒代で走る女なんざ、どこ行ったってエースだかんな、しかも運動靴で」

「ろ、ろく……なんか◎◎さんのスペックがどんどん上がってる気がするよ…」

「バーカ、上がってんじゃなくて知らなかっただけだろ、つーか、よく今まで無名だったっつーくれーだ」



パソコンをいじるヒル魔。

その画面には〇〇の情報がほどほどに入っていた。



「他校じゃ猫被ってやがったんだな、話しかけねーと口の悪さなんざわかるわけねー」

「…ヒル魔、珍しいね、いつもならとっくに調べついてるのに」

「出て来ねぇんだよ、目新しいモンはな、それ以外の情報なんざ脅しもん以外いらねぇ」

「な、なるほど…」



こりゃかなり粘着して付きまとわれるだろう…と、栗田は〇〇を哀れんだ。
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