Absolute ruler1
□念とその実力
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「さあ間もなく始まります!怒涛の快進撃を見せ、瞬く間に200階に上り詰めた瞬神≠フ●●●選手!相対するは戦績6戦6勝と負け無しの魅惑の胡蝶蘭<Vャーロット選手だァーッ!!!」
誰だそれ…可哀想な二つ名付けられてるし…同情しか出来ないんだけど…
「あら、これはこれは、可愛らしい子ね」
『?』
「貴女の対戦相手、シャーロットという者よ、今日はよろしくね」
…うん、可愛らしい。
あながち二つ名は間違ってないな。
ウチのフェザリーヌといい勝負出来るぐらいの美人が対戦相手だったらしい。
『…?』
「ふふっ、お手柔らかにお願いしますね」
『あー…うん、こちらこそ』
でも…なんだろ、この違和感…
どこかで感じたような…そんなことないような…
うーん…と考えても、やはりちょっとした違和感としか言いようがない…なんと言うか、痒いところに手が届かないむず痒さ…
首を捻っていれば、シャーロットは早々にリングへと歩いて行った。
あとを追うようにリングに向かえば、歓声が私を迎えた。
「瞬神≠フ●●●VS魅惑の胡蝶蘭<Vャーロットの戦いがいよいよ始まります!」
「よろしくお願いしますわ」
『まあ、お互い死なない程度にやろうか』
「ええ、私もこんな所で死にたくはありませんもの」
シャーロットは深く頭を下げ一礼すると、胡蝶蘭の花を一輪その手に持っていた。
成程…魅惑の胡蝶蘭て、まんまだった訳ね…
「始め!!」
「先手はこちらから行かせてもらいますわ」
審判の開始の合図と同時にシャーロットは胡蝶蘭を真上に投げた。
「時に●●●様」
『?』
「胡蝶蘭の別名を知っていますか?」
胡蝶蘭に別名…
『ファレノプシス?』
「よくご存知で、Phalaenopsis、蛾のような、でございます」
投げられた胡蝶蘭は茎から落ち、その花は空を飛ぶ。
姿はまるで蝶のような、蛾のような…
実況者は何か叫んでいるが、特に驚くことは無い、この人の念なのだろう。
「とても可愛らしい子たちでしょう?真っ白で…」
『…』
「とっても、いい子たちなの」
するりとシャーロットは指で何らかの合図を出すと、蛾はこちらに向かって飛んでくる。
意外と速い…
逃げるように後ろに下がれば、妙な甘い匂いが鼻につく。
『…?』
「甘い甘い、香りでしょう?」
甘い匂い、蛾から…?
『…花を蛾にし操る、匂いを発せさせる…変化系と放出系かな?反対にあるのに使えるってことは…』
「ふふふ…はい、私、変化系が主でございます」
『簡単にネタバレするんだね』
「はい、だって…」
グラッと眩暈がした。
「香りを嗅いだ時点で、私の勝ちですもの」
『…神経毒か何かか…』
「はい、この子たちの鱗粉には毒が含まれています、本来なら吸った時点で気絶ものなのですが…」
お強いですね、そう言って笑うシャーロット。
ふむ、この神経毒は初めて食らうな…今度勉強がてらシルバあたりに仕込んでみるか。
ふぅ、と深呼吸をすれば毒に身体が馴染んだ。
『ふむ、なかなかどうして…この違和感は何なのだろうか…』
「はい…?」
『いや、さっきから感じてたんだよねぇ』
よくわからない、何とも言えないこの違和感。
『シャーロット、この名前は本名かい?』
「ええ、シャーロット=オルフェン、それが私の名ですわ」
『…逆じゃなくて?』
「…は…?」
ひくりとシャーロットの笑みが引き攣った。
…ああ、わかった…この違和感の正体…
『シャーロット…君…』
「止めて!!!」
叫んだシャーロットは蛾に指示を出し、蛾は私に向かって飛んでくる。
長剣で蛾を切り裂くも、念で造られた蛾はまた形を成し、飛んでくる。
刺そうとする仕草から毒針を持ってることは明らか、恐らく、素手で触ってもアウトだろう。
そして、あの焦り…何かを誰かに隠している、でもそれは私ではない気がする。
だとすると今ここにいる観客に、またはテレビで観ている誰かにバレたくはないということ。
それをバラすのは簡単だが、それはあまりに可哀想だ、ゴン辺りなら気付くであろうこの違和感は、私の口からは言ってはいけないものだろう。
「ハァッ…ハァッ…」
『そうカッカしなさんな、言わないから』
「…え?」
『私に知られたくないんじゃなくて、私以外の誰かに知られたくないんだろ?』
「ど、どう…して…」
『なんとなく?』
彼女…は、うん、嘘は言っていない。
ただ本名はオルフェン=シャーロットが正しいのだろう。
『さて…反撃させてもらうよ』