小説

□かたおもい
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菅は飛び切り綺麗な笑顔を俺に向けていた。
菅が平穏なのが一番いい。俺を真っ直ぐ見られる関係なのが。
好きだと言いたくないし、言われたくもないのだろう。

「でも、俺、お前に好きやって言い続けるわ。」
俺は利己主義に言い放った。
俺の言葉に菅はビクリとして、まじまじと俺を見た。
「ゴメンやけど俺、おまえのフリがなくても、好きやって言いたいねん。今までも言ってきてるしな、ずっと。」
それくらいの自由はあってもいいだろう。重たいのはスルーしてもらう。これが俺なのだから仕方ない。
「宇治原…あの。」
「バランスは悪いか知らんけど、おまえに言わされて言ってるんとちゃうから、俺は俺の言いたい時に好きって言う。おまえは言いたくなければ言わなくてええわ。」
菅は居心地の悪そうな泣きそうな目をしていた。
「その代わり」
俺は菅のそばに寄って、両肩を一つの腕で抱いて顔を覗き込んで言った。
「言いたい時がもしもあったら、言うて。バランスなんて最初から考えんでええねん。」
ちょうどぴったり同じくらいな想いなんてあるだろうか。同じである必要もないし、同じであるか確かめる必要もない。
自分がどれくらい好きか、だけ。

菅は言葉を失って子供のような顔になっていた。
「おまえはバカでいろ。」
俺は言った。菅が考えたネタだ。頭を使う部分は俺の担当。
「いろいろ考えても、人の想いなんてどうせわからへんよ?わかってる気になってるだけや。」
菅は目の淵を滲ませてポツンと言った。
「そか…。俺はバカでいるわ。バカやもんな。宇治原が無理してへんって言うならええんやな。」
少し話が通じたようで俺は明るい調子で尋ねた。
「せやで。で、バカになって、宇治原のこと好きやって言ってもええかなって気になった?」
菅はクシャッと顔を歪めてから、泣き笑いのような表情で言った。

「今、めっちゃ言いたいわ。好きやなくて、大好きや、って言うてもええかな…」
「言うて〜」
菅は小さく笑った。
「大大大好きやわ…」
菅は俺にもたれてきて胸に顔を寄せ、掠れた声で言ってくれた。

俺の胸が暖かくなったのは、やっともらえた言葉のせいか、菅の目から零れた想いのせいだったのか。

「俺は超大大大好きや」
ギュッと菅の体を抱きしめて言う。菅は顔を上げた。
「バランス悪っ!」
二人して笑い合った。

「もう崩れてるやん!」
「崩れ方がぴったりおうてる」
「ちょっと待って宇治原さん、何言うてるかわかりません!」
「バカでいてください。」
「うん。わかった。俺はバカでいる。」
重たい空気は霧散して、いつも通りお互いを信じて笑い合えた。

わかったこと。

どちらもお互いが大大大好きなこと。
口に出しても出さなくても。

そしてどちらも、ちょっと自分の方が好きだと想っていること。
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