小説
□誰もいない日々
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ふたりになれた
まさか宇治原から声をかけてくるなんて思っていなかった。
合宿でもポツンと1人で黙々と飯を食っているだけだった。
僕の方を見ているとも思えなかったのに。
ただ、僕は少し離れている宇治原に聞こえるように、部員に面白い話を大声でした。
ちょっとでも、気づいてもらえるように。
こっちに寄って来やすいように。
でも、全然来なかった。
だから僕から行かなきゃ、と思っていた。
でも。
しらけた顔で反応されたら、二度とチャンスがなくなると、転校を繰り返して知っていた。ダメなヤツはダメなのだ。ファーストコンタクトが全てなのだ。
親友という存在に恋人より憧れていた。
こいつ、オレのツレやねん。
言ってみたくてしかたなかった。
僕に許された残り三年の高校生活で、編入生しかツレになりそうもないなら、宇治原しかいない。
いや、宇治原でなければ、嫌なのだ。
こんなに毎日、部活に出て、合宿にも来て、意識して、大声で気をひきたいのは、あのつまらなさそうな宇治原だけなのだ。
眠れなかった。
部員と恋バナをして、エロ話をして、それだけの興奮のせいではなかった。
宇治原攻略法を考えていて眠れなかったのだ。
それでも何の戦略も浮かばず、いつ眠ったかわからない朝を迎えて、洗面所に行ったのだ。
「オレの方がおもしろいけん」
聞きなれない広島弁。
まさかの宇治原。
転勤族なのか!
仲間やんか!
やっぱり、僕の親友になるべきは、こいつなんだと確信した。 それだけで胸がいっぱいになった。
オレの方が、、って、ゆうべの騒ぎを聞いていてくれたんやな。
でも、僕よりおもしろい、負けないぜ、という挑戦的な顔ではなかった。
オレといたほうがおもしろいぞ。
と、言われた気がした。
僕の部員とのバカ騒ぎが虚ろなものだと見抜かれている。
もっとおもしろいことしようや。
そう言われた気がした。
泣きそうになるのを堪えて、僕は笑って宇治原の腕を掴んだ。
「一緒に飯くおう!オレも転勤族やねん!」
二人の間に全てが共有された。
僕はツレを見つけた。
ずっと一緒に過ごせる、恋人より大切なツレを。
のちに、続く。