雪と夢と罪の歌

□プロローグ
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「主様、本当にボンゴレの要請に答えるのですか…!?」

「そうです…!わざわざあなた様が出向く必要は…」


ここ、中央公正機関ーー通称セントラルでは今、幹部たちによる緊急会議が開かれていた。

そこにはおおよそ10人程度の男女が居座っている。個々から発せられる空気から、只者でないことは一般人であっても理解できただろう。

その話題の中心にいる女性…いや少女は、その他の重役たちーーこちらも20代後半ほどの若者ばかりだーーを見回し、その可憐な唇から先ほど、重役たちをざわめかせるような一言を言ってのけたのだ。


『ボンゴレ10代目の守護のため、自分一人で日本へたつ』と。


重役たちにとってその少女は"少女"ではなく、謂わば"神"のような存在だ。

故に、今現在重役たちの心を支配している感情は二つーーーー計り知れない嫉妬心と、"神"…いや、自らの主が危険に晒されるという恐怖心。




そもそも中央公正機関とは、名字名前が5歳の時に起こした『大厄災事件』以後、彼女自身によって作られた平和形成機関。表社会には一切語られることのない機関だが、マフィアやヤクザ…所謂裏社会での統括を行っている。

セントラルには僅か100人程度の人間しかいないが、そこには団長である名字名前自ら選定した先鋭しかいない。
過去にセントラルを落とそうと二つの国の軍が攻めたことがあったが、セントラル側は大した痛手も負わず…そして痛手を負わせず撃退してみせた。


その戦いは今から大体3年前…少女が9歳だった頃の話だ。
それは現在裏社会で『聖戦』と呼ばれているが、『聖戦』以後、それまで反乱活動を続けていた数々の集団がセントラルの傘下に入った。

それは恐怖もあっただろうが…多くは団長の名字名前の優しき瞳に心をほどかれ、その下に着いた。



話が逸れたが、そんな敵さえも味方としてしまえる重役たちの主は、部下の一人であるボンゴレ9代目…ティモッテオの要請に自ら答えようとしているのだ。

普段から主の手となり足となっている重役たちからすれば、それはなんとしても避けねばならないこと。

主の手を煩わせることなど…あってはならないのだから。


そんな重役たちの心を知ってか知らずか、少女は依然として凛とした態度を続ける。

暗に「もう決まったことだ」と伝えているその姿勢は、余計に重役たちを焦らせる。


「主様、やはり我々の誰かが…!」

『聞いてなかったかい?』


しん…と、それまで沈黙を護っていた少女が話し出した途端、場が静まり返った。

同時に、重役たちは恐怖する。


ーーー主から感じられる僅かな苛立ちに。


『私は、行くと…そう言ったはずだけど?』

だれも話せないでいるその空間で、気にした様子もなく少女は続ける。

『お前たちは、私の決定に抗うの?』

重役たちは刹那、背筋が冷える…という状況を実際に体験した。よくよく考えると、今自分たちがしているのは…彼女への反抗なのだ、と。

彼女の『提案』に意見するのは問題ない。彼女自身もそれを望んでいるし、意見するとどことなく嬉しそうな顔をするのだ。

だが…彼女の『決定』に抗うことは…あってはならない。

彼女は言った。『ボンゴレ10代目の守護のため、自分一人で日本へたつ』と。


それはもはや『提案』ではなく、『決定』だったのだ。

「も、申し訳ございません…!」

抗ってしまった、と焦燥を感じている重役たちに、先ほどとはうって変わって優しい声色で話しかける。

『…お前たちが心配してくれてること、ちゃんとわかっているよ。でもね、ティモ君の…我が友の頼みだから、』

叶えたいんだ、と優しく笑う。その笑みに…重役たちはしばしば溺れていた。

『それに…』

そう続けた彼女は、どことなく嬉しそうにみえる。




『大きな…暖かい出会いを感じるの。』


プロローグ END

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