雪と夢と罪の歌
□6 体育祭 前編
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…前言撤回。こっちの方が凄いかもしれない。いや、確実に凄い。
「”極限必勝!!!”これが明日の体育祭での我々A組のスローガンだ!!勝たなければ意味はない!!」
とたんにオオオオオオ!!!と沸く室内。…少し煩いね。すると急に綱吉が納得したように話し出した。
「そっかー、体育祭のチームは縦割りだから、京子ちゃんのお兄さんと同じチームなんだ。…お兄さん今日も熱いなー…」
『綱吉、彼が本当に京子ちゃんの兄なのかい?』
「う、うん。…やっぱり疑問を感じるよね。全然タイプ違うし。」
確かに、あれが京子ちゃんの兄とは…遺伝子って恐ろしいのね。
かくいう京子ちゃんは彼の様子をみてハラハラしている。可愛らしい…綱吉も見ているんじゃないかと思いそちらに目をやれば、前を見ていて京子ちゃんを見ていなかった。
…綱吉みたいなタイプなら京子ちゃんとか好みドストライクだと思ったんだけどなぁ。違ったみたいだ。
「うぜーっすよね、あのボクシング野郎。」
「んなっ!」
「まーまー」
『そうかな?』
「フツーにしゃべれっての。ったく!」
パクパクと口を動かしている綱吉を見ていれば、小声で「本人に聞こえちゃうよ!!」と言っているのが聞こえた。ふふ、小心者だねぇ。
「今年も組の勝敗をにぎるのは、やはり棒倒しだ。」
「『ボータオシ?』」
「どーせ1年は腕力のある2・3年の引き立て役だよ。…名前ちゃんは女の子だから出ないからね。」
…どうして私が出たいって思ってたことわかったんだろう…
名前を聞いた感じ既に面白そうな空気をかもしだしてるんだもの。出たいって思うのは普通だろう?それに恭弥も詳しくは教えてくれなかったけど、「あれだけは群れてても面白いね。」と言っていたから。
「例年、組の代表を棒倒しの”総大将”にするならわしだ。つまりオレがやるべきだ。
…だがオレは辞退する!!!」
「「「「え!!?」」」」
『…?』
急にざわめく教室内。”大将”なんて言葉、彼が一番似合うんじゃないかな…他に誰がいる?というかそうなれば彼は何をするんだ?
「オレは大将であるより、兵士として戦いたいんだー!!」
「「「「(単なるわがままだーっ)」」」」
『…ふふっ、面白いなぁ、彼。』
顔は真剣なのに、言ってる我が儘はまるで子供。…天然っぽいところは兄妹そっくりだねぇ。
「だが心配はいらん。オレより総大将にふさわしい男を用意してある。」
「え…」
「笹川以上に総大将にふさわしい男だって?」
今度は別の意味でざわついた室内。…彼以上に熱血な男、ってこと?なかなかいないと思うけどなぁ…
次の瞬間上がった名前に、私どころが全員が驚愕することになるのだが。
「1のAの沢田ツナだ!!」
「『へ?』」
「「「「な!?」」」」
* * *
「100M走どころの心配じゃなくなったよ!」
そう言って歩いている綱吉。その隣にいる私と、私の肩に乗っているリボーン。
恭弥と帰る約束、また延長になってしまった…
彼は問題があり隣町へ、私はお弁当の中身を前もって知られるのは嫌なので、明日体育祭が終わったらということになった。
…綱吉、泣きそうになってるな。助けてあげたいけど、決定してしまったからねぇ。
『あそこで押しきられなければ庇えたんだけど…』
結論から言えば、最初は全員「勝ちたい」という気持ちから綱吉を選ぶことはなかった。しかし…熱血先輩やら忠犬君やらの恐怖政治(一部の女子は獄寺隼人に賛成していたが)により、強制的に挙手が過半数を越えてしまい、綱吉が総大将に決定してしまったのだ。うーん…無理にでも話に割り込めば良かったかなぁ。でも気づいたらリボーンが膝の上にいて、「止めるなよ」といった顔でこちらを見ていたから。
でも今回のは止めた方がよかったかもしれない。
「先パイ達からは白い目で見られるしー…!総大将なんて絶対ムリだよー!!」
『綱吉、』
「そんなのやんなきゃわかんねーぞ。」
やりたくないならやらなくていい、そう言おうとした言葉を遮られる。…リボーンはきっと、私が何を言おうとしたかなんてわかってんだろうなぁ。だから遮ったんだろうね。
「おまえは棒倒しの怖さを知らないからだよ!!」
『怖さ…?』
「うん…みんな総大将を落とすために服を引っ張るどころか殴る蹴るは当たり前。勝手も負けても総大将はキズだらけさ!だから普通は総大将にはそのチーム最強の男がなるんだ。」
『…ああ、B組C組どちらも凄かったねぇ。』
B組は空手部部長、C組は相撲部部長だったかな。どちらも巨体でむしろ支える方がつらそうだし。その点綱吉は軽いから下は楽だね。
…リボーンが笑ってるのが気になるけど。
「ワクワクするな。」
「ガクガクするよ!!」
『ふふ、テンポのいい会話だね。仲良しさんたち。』
「うー…名前ちゃんー…」
うるうるとした涙目でこちらを見てくる綱吉。どうしよう…手助けしたくなってきてしまった。でもなぁ…
「名前に頼んな、ダメツナが。」
「だってー…!」
しょうがない子だな、と助け船を出そうとしたとき聞こえてきた女の子の声。
「ツーナさん!こっちですー。」
「ハル!」
『?』
女の子?と首を捻っていると、私が声をあげる前に綱吉が叫んだ。
「なっ、何してんだよ!?」
「リボーンちゃんに聞きましたよ!ツナさんの総大将決定を祝って、棒倒しのマネです!!」
「は!?」
『奇想天外な子だね。』
「受け入れちゃってるー!?…っていうかバカ!恥ずかしいからやめろよ!!」
わざわざ私の発言に突っ込んだあと、ハルと呼ばれた少女に怒鳴る。顔が赤く染まっていると思えば、彼女のスカートの中が見えそうだと発覚。…綱吉もちゃんと思春期やってるねぇ。
「…はい。ハルも途中で失敗だときづきました…
おりれなくなっちゃったんです。」
ガーンとショックを受けている綱吉。ふふ、はやく助けてあげないと。
『そこ、動かないでね。…綱吉、上見ちゃダメだよ。』
「は、はい!」
「わ、わかった!」
そういって片足を電球の釘の様なところにのせ、たんっと飛び上がる。一息で少女のいる高さまで行って手を差しのべた。
『ほら、掴まって。…そう、なるべく強く。』
「わかりました…」
ぎゅうと彼女の片腕が私の体に絡まると、支えながらそっと抱き寄せる。
『舌噛んだら困るから、歯を食い縛ってて。…できるね?』
「はい!」
元気のいい返事のあと彼女の口が閉じたのを確認すると、抱き寄せた状態で飛び降りた。
「ーっ!」
声にならない声を洩らしている少女をしっかり抱え、膝のクッションを使ってとん、と着地する。そしてゆっくりと彼女を下ろした。
『よし…もう大丈夫。危ないから今後は登ってはいけないよ?』
「は、はい。ありがとうございました!
…あ、あの!キュートでビューティフルなあなたのお名前はなんていうんですか!?」
『ふふっ…名字名前、綱吉とはクラスメートでお友達、かな。』
「では、名前ちゃんと呼ばせていただきますね!私は三浦ハルと申します!ハルとお呼びください!」
『そうだなぁ…ハルちゃん、でいいかな?』
「!はい!」
にっこりと笑むハルちゃんは、京子ちゃんとはまた違った魅力を持つ女の子のようだ。綱吉にべた惚れ、なのかな?
『それで、なんであんなところ登ってたの?棒倒しのマネって言ってたけど…』
「あ、そうでした!ツナさん!明日うちの学校休日なんです!ツナさんの晴れ姿を見に行きますね!!」
『…おやおや』
「い!!いいよこなくて!!」
「はひ?どーしてですか?」
「それは…」
…大方、恥かいてカッコ悪いからとか思ってるんだろうなぁ。頑張ってれば誰でも格好いいのに。
「と…とにかく、見にきちゃダメだぞ!」
「あっ、ツナさん!」
『…行っちゃったなぁ。』
きっと熱血先輩のところに直談判しにいったんだろうね。ついてはいけないけど…がんばって、綱吉。
「あ!ハルは奈々さんにお弁当一緒に作る許可をもらいにいかないと!名前ちゃんも一緒にどうですか?」
『ごめんよ、ハル。明日のお弁当の買い出しがあってね。』
「なら仕方ないですね!今度一緒にお出かけしましょう?」
『ああ、約束。』
「約束です!では名前ちゃん、リボーンちゃん、シーユーです!」
そう言って大きく手を振ると、綱吉が行った方とは逆向きに走っていった。
『さて、リボーンはどうするんだい?』
「もちろん、ツナを追うぞ。だがあいつは足おせーからな。急がなくても大丈夫だ。」
『そうだね。』
足が遅い、のはまあ事実だから仕方ない。そんなのこれからどうにでもできる。
にしてもリボーンは容赦ないなぁ。
するとニヒルな笑みを浮かべたリボーンが、そのまま口を開いた。…なんとなーく嫌な予感。
「最近は随分ヒバリと仲がいいみたいじゃねーか。」
『…ん?』
「キスされるなんざ愛されてる証拠だぞ。あのヒバリが戦う時以外に人に触れること事態珍しいんだからな。…今日も仲良く朝寝してたじゃねーか。」
え…?ちょっとまってよ…!
『な、なんで知って…!というかどこまで見てるんだい!?』
「覗いてたわけじゃねーぞ。オレが見たらたまたまそーゆーシーンなだけだ。」
『…っ!』
見られてた…見られてしまっていた。うう、よりによってリボーンとは、いったいどんなところでネタにされるか…!
「安心しろ。まだヒバリにもちょっかいはかけてねぇ。」
『ま、まだ…?』
「ああ。(せめてくっつくまで待ってやる。まあもうそろそろヒバリは仕掛けてくるだろーがな。)今後に期待しろ。」
『出来るわけないだろう!?…まったく、恥ずかしい…』
火照った頬を押さえながら恨みがましそうにリボーンを見る。それでも彼は余裕の笑みだ。…大人の余裕ってやつかい。見た目は赤ん坊だけどね。
「そろそろツナがつくころか。…セントラル団長、悔しかったらもっとポーカーフェイスの修業をするんだな。」
『余計なお世話だよ。…晴れのアルコバレーノ、リボーン。』
「ふっ、じゃーな。ちゃおちゃお!」
『…じゃあね。』
たたた、と赤ん坊とは思えないはやさで消えていくリボーン。
それを見送ると、赤くなった頬を感じながらも買い物に歩きだした。
6 体育祭 前編 END
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