雪と夢と罪の歌

□4 編入とセーラー服
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…うん、目に毒だね。見苦しいとかじゃなくて、中学生男子として。
そうは思っても、上の丈に問題さえあれど…とてもよく似合っている。前も着ていたと言っていたし、着なれているのかな。

『あ、の…』

恥ずかしそうに頬を染め、伺うようにこちらをみてくる名前。
着替えてもいいですか、と消え入りそうな声で聞かれ、肯定の返事を返した。
僕が再度後ろを向くと、よほど恥ずかしかったのだろう。いそいそと着替えているのがわかる。

そんなに恥ずかしがるのなら、僕が振り返る前に一声かければよかったのに。
そんな少しおっちょこちょいなところにも、ひどく愛しさを感じた。

* * *

現並中の制服にもう一度身を包んだ名前は、やはり頬を染めたまま。そしてあまりこちらを見ようとしない。
恥ずかしがっているのはわかっているが、ここまで可愛らしく反応されるとついつい加虐心が煽られてしまう。
それに、せっかく二人でいるのにこちらを見ないなんて…正直面白くない。

良いことを思い付いた、と向かいのソファーに座っていた名前のもとへ行き、隣へ腰を降ろす。

…なるべく隙間を開けぬように。
案の定ピクリと反応した彼女は、ゆっくりと赤い顔をこちらに向ける。髪と同じ、美しい赤色…まるでルビーのようなそれが僕を捉えて、心臓が早鐘を打った。
先ほど名前にやられたようにゆっくりと輪郭をなぞってやれば、触れあっている部分の温度がどんどん上がっていき、そこから彼女の、そして僕の緊張や照れを容易に感じとることができる。

『っ恭弥、』

恥ずかしいの、だけど…とあまりの緊張からか敬語が抜けた名前が、熱い吐息とともに言葉を吐き出した。

…ああだめだ。こんなことをしてしまえば、

まるで、恋人みたいで。

それでも、こんな空気が嫌じゃない。むしろ…
望んでしまってるような、そんな気がした。

* * *

恭弥の美しい手が未だ私の輪郭を、壊れ物を扱うかのようにそっと撫でる。
恥ずかしいと言ったんだけど…

でも口に出した言葉とは裏腹に、もう少しこのままでいたい、なんて。
今は一時限目中盤くらいだろうか。俯いた顔を上げられないから時計も見られない。
すると急に彼から笑い声が洩れる。びっくりして見上げてみれば、ひどく優しい顔で私を見ていた。

「…顔、真っ赤だよ。林檎みたいだ。」

『う…だって、』

二の句が紡げなくなり、結局はまた閉口してしまう。
そんな様子についに笑い声を溢した彼は、私の輪郭に添えた手を顎までながし、人指し指でくいっと持ち上げた。

「恥ずかしかったんだね。…でもこちらを見ないのは感心しないな。ほら、僕を見て。」

感心しないと言いつつも、声色は依然優しさを保ち続けている。そんな声で諭されてしまえば、逆らうことなんて出来るわけがない。
ぎゅ、と作った拳を握りしめながら、恭弥の瞳をみつめ返した。黒曜石のような瞳が優しい炎を宿し私を見て、煌めいていて。なぜだろう…それを感じると同時に、

『っ…』

胸が、締め付けられた。

「………い。」

『···?』

「!いや、なんでもない。…一時限目終了まであと35分か。用は済んだけど…」

『…用がないなら教室に戻った方がいいですか?』

ぼそり、と何かを呟いていたようだが、瞳ばかりを見つめていたせいで口の動きを把握していなかった。とはいえ彼も自分が呟いたことに大層驚いている様子なので、聞かなくてよかったのかもしれない。…気になってしょうがないけど。

そして寄る彼の眉。

「だめ。」

『でも、授業が…』

「…どうせ出なくても大丈夫でしょ?君の資料に成績優良、って書いてあったし。」

…資料ってなに?気づかぬ間に調べられてたのか、私よ。
まあ、おそらくガセでわざと流したやつだろうからいいけど。
…というか成績よければサボりはありなんだねぇ。授業に出たいわけではないけれど、一応沢田綱吉の守護が任務なのだから離れすぎるのも良くない気がするな。
そう思っても口に出せないのは、彼に不思議な力でもあるからなのだろうか。それとも、私が…

「…いいから、ここにいて。」

ふと溢された言葉。

続いて「僕の枕になってくれてもいいんだよ?」なんておどけて見せてはいたが、ここにいてと言った時の恭弥が、それを切望している気がして。

『…もう、二時限目はでますからね。』

「うん。…枕、なってくれる?」

『ふふ、仕方ないですねぇ、』

なってあげますよ。あなたが望むなら。



結局ごねた恭弥のせいで、お昼時まで応接室から出られなかったことは…言うまでもないだろう。


4 編入とセーラー服 END

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