雪と夢と罪の歌

□5話のかきたし
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「…本当に送っていかなくていいの?」

恭弥の腕の中から解放されたのは、あれから結構な時間がたってからだった。
その時にはもう放課後だったし、今日は目立った仕事もないので帰宅することに。

そこで発生した問題がこれだ。

『えっと…ごめんなさい、今日は遠慮しておきます。』

「…そう。」

送ると言った恭弥には申し訳ないが、今日は一緒に帰ってはいけない。…気がするのだ。仮契約とはいえ、綱吉の超直感が私にも流れてきている。この勘には従う方がいいだろう。

とはいえ、少し寂しげな表情を浮かべる恭弥を放置することは出来ない。
なにかいい方法は無いかと思案した時、ふと頭に浮かんだ一つの旋律。

『指切り、しませんか?』

「?」

『ふふ…今度は一緒に帰ろうって約束です。』

「!いいね。じゃあ歌ってよ。君の声、好きなんだ。」

途端に調子が戻った恭弥。彼に褒められるほどいい声は持っていないけれど、褒められたからには歌ってみせたい。

その想いと共に、そっと舌に声を乗せた。

『うーそつーいたーら、っ』

「…かーみこーろす」

歌っていた口を唐突に手で塞いだ恭弥は、彼の十八番らしい言葉を歌にして吐き出した。おまけに耳元で。
テノールで奏でられるそれは、どこか妖艶な響きを持っていてならない。

『、ゆーびきった…』

思わず俯いてしまいかけた私を流し目で見た恭弥に先を促され、歌い上げたその曲。
彼の顔が満足げに和らぐのを横目で確認すると同時に、頬に熱がこもっていく。

そんな彼が小さく私の耳に息を吹き掛けたあと、柔らかい感触が頬に触れた。

『…え、』

「じゃあね、また明日。気を付けて帰るんだよ。」

頬に触れた感触が恭弥の唇だと気づいたときには、もう彼は踵を返して去っていってしまった。急激に熱くなる頬。それはもう今までの比にならないくらいで、湯気が出そうなほどだ。

『…恭弥の、あんぽんたん…!!』

そう言って俯いてしまった私は知らない。

彼の髪の間から僅かに見える耳も、私の頬と同じように赤く染まっていたことを。

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