雪と夢と罪の歌
□8 はじめての殺し
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設定してあった着信音…ドラゴンクエストのテーマ曲が部屋に響き渡る。
『…もしもし?』
「《もうすぐ"殺され屋"がツナん家にくるぞ。おまえも支度してこい。》」
『殺され屋…?あー、モレッティだねぇ…私の信者のひとりだしー…あったことないけどー…』
「《…二度寝すんなよ。今から支度すれば間に合うからな。》」
『ん、わかった…』
ぷつりと切られた電話に瞼が再度落ちてきそうになったが、なんとか踏み留まりやたらと大きいベッドから抜け出した。
* * *
『おや、』
「おっ」
「なっ」
綱吉の家の前に見えた二人の人影。まあ予想通りというかなんというか、武と獄寺隼人だった。
「なんでおめーもいんだよ!」
『リボーンに呼ばれてね。』
「小僧かー!つーか名前、私服だといつも以上に女の子っぽいのなー!」
『ふふ、そうかい?…ところで二人はなぜここに?』
「今日は部活ねーから獄寺と同じヒマ人なんだ。」
爽やかに笑う武とは正反対の獄寺隼人。にしても体育祭の次の日(土曜日)に集われるとは、我が主はやはり人気者だねぇ。
「コラ!誰がヒマ人だ!?一緒にすんじゃねー!」
叫び声をとりあえず無視して扉の前へ。ピーンポーン、と一応インターホンを押すだけ押して勝手に中にはいる。奈々さんはいないようだしね。
『…といっているが?』
「いやーそれがさー、獄寺のやつさっき公園のベンチでタバコふかしながら、ハトに向かって「ヒマだー」って言ってたんだぜ?」
それは、なんというか…意外な一面?そんなことを頭の中で考えつつも階段をあがっていく。
『うーん…実はメルヘン思考だったりするのかい?』
「な!そんなわけねーだろ!てか見やがったなー!!」
綱吉の部屋にたどり着き、がちゃりと扉を開けた。…どういう状況だい、これは。
「よおツナ!」
「おじゃまします10代目!」
『お邪魔します…綱吉、ハルちゃん?』
そこにはさながら地震が来たときのように机のしたに潜り込む綱吉とハルちゃんの姿。
「……何してんだ?」
「かくれんぼ……スか?」
『…ああ、そういうこと。』
泣きわめいている綱吉とハルちゃんを二人に任せ、ベッドの上にいる"殺され屋"をじっと見つめた。
「落ち着けよ。まだツナがやったって決まったわけじゃないだろ?」
「そーっスよ。だいたいこいつ、本当に死んでんスか?」
「だ…だって……血が…」
『…ほら綱吉、泣かないの。』
にしても獄寺隼人、なかなかいい勘してるなぁ。戦場では必要だよ、そういうの。
とはいえ、死んでるかもしれない人に根性焼きはいただけないな。死者への冒涜になるからね。
そして、たとえどんな状況でも"殺され"ていなければならない人間が根性焼き程度で動いてはいけないよ。本能的に仕方ないけれど、本業ならしっかりやってもらわないと。
「ぎゃあああああ!動いたあぁ…!」
「救急車です!救急車呼びましょーっ!」
『ねえ二人とも、その人は、』
「その必要はないぞ。医者を呼んどいた。」
ずっと部屋にいたわりに、全く口出ししなかったリボーンがここにきて話し出す。…正体は言うなってことだね。
そしてそんな彼の手元には…
「Dr.シャマルだ。」
「ヒック」
「あいつは…!」
酔っ払って引っ張られるシャマルの姿。そしてなにやら因果関係のありそうな獄寺隼人。
『知り合いかい?』
「…うちの城の専属医の一人だったやつで、会うたびに違う女連れてて…『誰?』って聞いたら『妹だ』っつーから、」
「「『…』」」
「ずっと兄弟が62人いると思ってた。」
「なんだそれ!」
『62股…』
笑っていられる武は純粋にすごいと思う。ある意味62股していたシャマルも尊敬するが。
「よお隼人じゃん。…姫もご在のようだしなー!チュー!」
『却下。』
「話しかけんじゃねー!女たらしがうつる!スケコマシ!!その女とも知り合いだったのかよ!」
「どっちもつれねーなー。…姫はほら、姫だしよ。」
『どういう理屈だい、それは。』
「それにしても姫は女の子らしい私服でかわいーねー!脱がしたくなっちゃうじゃねーか!」
シャマル、恐らく意図的に私の名前を呼んでいない。呼べばモレッティはきっと反応してしまうってわかってるんだろうねぇ。…実は家に入ってからここまで、奇跡的に誰にも名前を呼ばれていないのだが。
まあシャマルのその気遣いに免じて殴るのは無しにしてあげようか。それに、私が殴らなくてもハルちゃんが殴ってくれる気がする。
というか武もシャマルも、いったい私の私服のどこが女らしいと?前のシフォンショートワンピースならまだしも、今日はタイツを穿かずに黒のニーハイで黒のショートパンツ。さらに上も黒のタンクトップにグレーのカーディガンで、特に女らしい要素はないんだが。色はセントラルの団服と揃えているけれどね。
頭の中でそんなことを考えながら、予想通り殴られているシャマルを見て。
今はまだ名前を呼ばれないためにも、もう少し傍観を決め込むことにした。
* * *
ぼんやりとみんなの様子を見ていたら、どうやらシャマルが帰るらしいということが発覚。男は診ない主義のシャマルがここまでいたのは茶番劇の付き合い、かな?
そうしてシャマルがみんなに話しかけている間、リボーンが私の肩に乗ってきた。
「名前、下から靴もってこい。」
『…なにかするのかい?』
「おめーにとっちゃいいことだぞ。」
『そう、わかった。』
いいこと、の定義がリボーンの話だと90度くらい違うのだが、まあ彼は私の嫌がることはしないだろうと判断してシャマルと共に玄関へ降りる。
そうして彼を見送ったあと、靴をもって再度二階へ。
階段を上がっている途中でなにやら大きな音が聞こえてきた。…バイクかな?
そんなことを思いながら上がっていった先、扉を潜ると同時に驚愕した。
『…恭弥?』
「名前?…ああ、そういうことかい赤ん坊。」
「まぁな。…おい、セントラル団長。」
『…ん?』
「「「「?」」」」
「「!!」」
一瞬理解が追い付かずぽかんとするが、すぐにピシリと固まってしまった。
周りのみんなは、リボーンが誰のことを呼んだのか理解出来ていない様子だ。…いや、二人気付いている男がいるか。 獄寺隼人と、
「なっ、リボーンさん!まさか、」
「名前様!?」
「「なぁぁぁああああ!?」」
…モレッティ。突如起き上がった彼は、獄寺隼人の言葉を遮るほどの声量で私の名を呼んだ。もちろん死体だと思っていた綱吉とハルちゃんも負けじと叫んでいたが。
『うーん…一応初めまして、かな?モレッティ君。』
「はい…!!ああ、夢にまで見た、私の救世主様(メシア様)…!!」
「んなー!?どーゆーことー!?」
「や、やっぱり…風の噂では聞いていたが、マジで来てたのか…!!」
『…噂?』
興奮醒め止まぬモレッティ君が私の前に跪く。するとおおよそ想像はしていたが叫びだした綱吉。そして若干顔を青くした獄寺隼人。ほかの3人は何がなんだか、という顔をしている。
「セントラル団長が単独で『島』の外に出た…オレはそう聞いたが、まさか本当だったとは…!!」
「ふっ、まあそーゆーこった。ツナの世話係にはもったいねーくらいなんだぞ。」
「えー!?やっぱりお偉いさんだったのー!?」
『…何も今言わなくともいいじゃないか。』
リボーンはネタばらしがはやいよ、他の子達は理解できていないようだから構わないけれど。
騒がしいそちらを無視してモレッティと向き合い、シャマルのときと同様にするりと手を差し出した。
『会えるときを心待ちにしていたよ、私の"子"。』
「はい、"母"よ。この命、この体、この魂は全てあなたが為に。」
「「「「「!?」」」」」
そうして差し出した手の甲に、恭しくキスを落とされる。"騎士契約"と私は呼んでいるが…まあ平たく云えば信者契約だねぇ。信者の子達が私との主従関係を確かにしたいがために始まったものだから。
そこまで考えると、ぐいっと腰に回された腕に体が引かれた。
『恭弥?』
「じゃ、赤ん坊。約束通り"大好物"は貰ってくよ。…名前、靴履いて。」
『?わかった。』
「ああ、丁重に扱えよ。」
なにやら二人にしか分からないような会話をしたあと、私に靴を履くようにいった恭弥。…室内で靴を履くって…ごめんよ、綱吉。
そうして靴を履いたのを確認した恭弥は、
『わ、』
「「「なっ!」」」
前触れもなく私をお姫様だっこした。そしてそれに反応する男子勢、なにやら目を輝かせるハルちゃん、ニヒルに笑うリボーンに、顔の赤くなっているであろう私。
『え、っと、じゃあねみんな。モレッティ君も頑張って。』
「え!」
「は、はい…!!」
「…またね。」
窓枠に足をかけた恭弥はもう一度私をぎゅうっと抱くと、躊躇いもなく飛び降りた。自分で降りるのとはまったく違った浮遊感に驚いて、つい恭弥にしがみついてしまう。…彼はなにやら嬉しそうに笑っているが。着地したあとはそっと降ろされた。
と同時に上から聞こえてくる綱吉と獄寺隼人の声。
「いや!ちょっ!あの!!」
「10代目!!退いてください!!あいつだけはやり返さねーと気が済まねぇ!!
果てろ!!」
「獄寺くん!!名前ちゃんが···!!」
お決まりの台詞のあと降ってくる5、6個のダイナマイト。恭弥はそれを何処からか出した金属の棒ーーートンファーで打ち返す。
「ゲ、」
!このままじゃ綱吉達が危ない…!
咄嗟に左の手のひらを右の手のひらに添え、左の手のひらで何かを握る動作をすると、居合いの様な姿勢でおもいっきり腕を振った。
すると切れていく導火線達。だが1つだけ上手く切れなかったものがあったらしく、
「うそーっ!」
綱吉の部屋の中で炸裂した。ごめんよ綱吉…
「…行くよ。」
『?どこへ?』
恭弥も色々と問いたいことはあるようだが、とりあえず放置するらしい。にしても恭弥は主語が足りないことが多々あるねぇ。
「…名前の家に行きたい。だめ?」
『!ふふ、だめなわけないだろう?』
そういうと途端に明るくなる恭弥の表情。分かりやすい人だ。
「ほら、後ろ乗って。」
『ええ。』
そして私にしっかり掴まっているように言うと、そのまま颯爽と走り出した。
なんとなくだけど…今日はきっと、一日の大半を恭弥の腕のなかで過ごすことになるんだろうなぁ。
でもそう考えるだけで高鳴る心臓に、なぜだかとても幸せな気分になった。
8 はじめての殺し END
→おまけ