□ぐだる長編(途中)4ページ
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無機質な色合いの街頭の光が目の前の道を等間隔で照らしている。悪寒がするほど静かな夜の冬木市には、命の気配が全く感じられない。
「実は皆死んでましたって言われても信じる」
現代人は昼夜問わず元気な生き物なのだと思っていたが、認識を改める必要があるらしい。だが、この死に絶えたような空気は悪くないな。と思いつつ、こちらでの拠点を探す。今現在、絶賛家出中な私には早急に雨風寒さを凌げる寝床が必要だ。あと食料。家出は今回が初だが、まあ、なんとかなるだろう。と高を括って出てきた私を呪いたい。この町の雰囲気は嫌いじゃない。だが、これだけ人がいないと道を尋ねることもできない。つまり詰んだ。八方塞がり。打つ手なし。金だけ持って後は着の身着のまま出てきた私には野宿という選択肢しか用意されていないのである。
「野宿って公園とかでするものかな?」
ぐるりと周囲を見渡して手頃な公園を探す。野宿などどこでしようと同じようなものだが、私にとっては『なんとなくそれっぽい感じ』というのが大切なのだ。うきうきと夜の寒さなどなんのその、野宿用の公園を物色しようと一歩を踏み出した時。
「おや、君は……」
三毛猫のオスでも発見した。というようなニュアンスが含まれていそうな声が聞こえて振り向くと、そこには赤いダンディーなおじさんが、これまた道端でパンダを見つけた。というような表情をして立っていた。現代では家出少女はそう珍しくもあるまいに。そのまま喋らない男に対し「何か?」と声をかけると、 男は「いや……」と頭を振って答え、次いで優雅に口角を上げ、柔和な笑みを作った。
「君は、散歩でもしているのかな?」
「いいや」
「それでは、何だい?」
「家出、というものを少々」
「家出……ね、穏やかな響きではないな」
「君には関係のないことではないか?」
非行に走った少年少女を心を尽くして説得する。など、とてもやりそうには見えない。よってこの男は私に構うことなくさっさとこの場を去るべきだ。だが、この赤い男は、私の一挙一動も逃すまいとした眼差しを、その作られた柔和な笑みで覆い隠しながら注意深くこちらを見ている。
「こんな時間に一人で歩いている女性を放っておくのは優雅ではないのでね。お困りのようなら手を貸そう」
「いや」
結構ですよ。
恭しく差し出された手に、困ったように微笑んで見せて/思わず上がる口角を抑え込んで、丁重にお断りの意を告げると、「強情な人だ」と男は諦めたように息を吐いて手を引いた。見ず知らずの他人に何を躍起になることがあるのか。
「そこまで言うのなら仕方がない。失礼させてもらうよ」
「ええ、道中お気をつけて」
やっと帰る気になったらしい男は、こちらに背を向けて歩き出そうとして、ふと「ああ、そうだ」と、今思い至ったかのように言葉を投げた。
「この先を左に曲がって、まっすぐ進んだ辺りにビジネスホテルがあるから、今夜はそこに泊まるといい」
「……どうも」
私が何に困っているのかお見通しだったらしい男が、今度は「宿泊代が無いならお貸ししようか?」と言い出す前にその場を離れた。
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