□ぐだる長編(途中)4ページ
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自分の人生を捧げ、ついには自分の娘をも捧げた男は歓喜にうち震える。目の前の少女の姿は間違いなく自分の娘。だが、その中身は全くの別物。男が長い間追い求めた存在であった。
「おお、神よ!御前に姿を晒すこと、どうかお許しいただきたい」
跪き、もとは娘であったその女を見上げながら、自分の人生をかけたその成果に男は酔っていた。「神降ろし」という偉業を成し遂げた男は、他の魔術師からの羨望や嫉妬、憧憬といった自分に向けられるであろう様々な視線を想像し、それに浸っていたのだ。だから男は気付けなかった。
「その肉体は我が娘のものにございます。娘は貴方様に使っていただけるのであればと喜んでその身を差し出しました。私も娘を失うのは身を切られると同等のことでございましたが、貴方様のご降臨には代えられぬことで御座います故」
気分の高揚により饒舌になっていく男は気づけなかった。
その底冷えのするような瞳に。
「足りない」
「……は?」
澄んだ声音に男の紡ぐ言葉が途切れる。
「足りない、と言った」
そこで初めて男は女の目を直視し、息を呑んだ。
「娘の身体だけでは足りない。もう一つ、捧げてくれなくては等価にはならない」
そこには男しか映っていなかった。どこまでも男という個人を見つめていた。
「貴方が私を降ろした。だけど、これは本来貴方には成し得ない所業」
男の本質。男の人生。男の理想。男の願望。男の未来。全てを見つめていた。
「奇跡はただでは起きない」
逃れられないと悟った。女の言葉に、ではない。女の目に。自分は全てを懸けて奇跡の代償を支払う他に道はないのだと理解した。
「貴方はこの奇跡に何を払う?」
見下すような、慈しむような、嘲笑うような、羨望するような色を混ぜたその眩しいほどの金の輝きに映る「男」を見つめながら、男はゆっくりと目を閉じた。

―――ああ、どうせなら――――2つ揃った貴方に見てほしかった――――
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