novel 銀魂 短編

□追いかけっこ
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「おいィィィィィィ!!!名無しさん!!待ちやがれコノヤロー!!!」
「イヤー!!!」

蒸し暑かった夏の時期を終え風が心地よくなってきた秋空の下で私は銀さんと謎の追いかけっこをしていた。その理由はほんの数10分前に遡る……。



万事屋にちょっとした手伝いにきている私はその日も万事屋の家事をこなしていた。銀さんは相も変わらずソファーで寛いでいる。
「……名無しさんちゃーん。ちょっといいか?」
どこかいつもより慎重な声音で銀さんが私を呼ぶ。
「ん?何?銀さん」
私もなんだか落ち着いた声で尋ねた。
銀さんは普段のおちゃらけた雰囲気と違い、どこかかしこまっていた。その雰囲気に疑問を感じながらも銀さんの紅い瞳を見つめる。
「あの……名無しさんちゃんさ、ほぼ毎日万事屋で働いてもらってるけど、楽しいか?」
「え?もちろん!
万事屋の3人だけじゃ家事大変でしょ?家主はちゃらんぽらんだし、私が神楽ちゃんと新八くんの面倒みなきゃって思うよ!だから役に立てて本当に楽しい!」
私は銀さんの質問が思いの外ふつうのことだったので安心した。銀さんがいつもと違って見えるのは私の思い過ごしだろう。
「…………そうか。悪りィな、突然変なこと聞いて。本題はこっからなんだけどよ、……………名無しさん、……………実は俺……………………………名無しさんのことがずっと好きでしたァァァァァァァ!!!!!俺と付き合ってくださいィィィィィィ!!!!!!」


………………………ん?え?今銀さん何て言ったっけ、好き?付き合ってください?あれ?私今告白されたの……?え、待って、さっきまで普通の会話してたよね?

急なことすぎて私の頭の中は完全にパニック状態となっていた。
何も言わずに放心状態となっている私に銀さんが不安そうな顔で話しかける。
「………おーーーい、名無しさんちゃん?あれ?大丈夫?名無しさん!?おい!!しっかりしろォォォ!」
銀さんに揺さぶられながらようやく銀さんに言われたことを理解してきた私は急に銀さんの顔を見るのが恥ずかしくてたまらなくなった。
「わ、わたし、えっと、ごめんなさいィィィィィィ!!!」
恥ずかしすぎて、叫んだ勢いのまま万事屋を飛び出して逃げてしまった。

ど、どうしよう。顔から火が出そう!何これ何これ何これ。銀さんが、私のことを好き?夢としか思えない。だって銀さんは皆に好かれてて私なんか手も届かない存在で……

走り逃げながらいろいろ考えていると後ろから聞き慣れた声がした。
「おい!名無しさん!!何で逃げるんだよ!」



そして今に至るのだ。
両者ともに変わらないペースで追いかけっこは続いていた。息が上がり、足が疲れてきた。私は足には自信があったほうだったが、相手は銀さんだ。逃げ切れるような相手ではない。頭を使わなければ。
するとちょうどそこに歩いて見回りをしている真選組を見つけた。
「土方さーーーーーん!!!」
精一杯の声で叫ぶ。すると土方さんはこっちに気づいてくれた。
「助けてください!!!あの人、変なんです!」
「あ!?」
銀さんが慌てている声が聞こえる。よし、と心の中でつぶやく。
「おいおい道のど真ん中で女追いかけるとはてめェ恥ずかしくないのか、万事屋。お前はいい加減切腹しやがれ。」
土方さんが銀さんを止めようと銀さんの前に立ちふさがった。しかし銀さんに止まる気配はない。
「俺は今から世界の真ん中で愛を叫ぶんだ!!そこどきやがれェェェェ!!!」
銀さんの迫力に圧倒されたのか、銀さんは土方さんの横を避けることができ、そのまま猛ダッシュで私の真後ろまで追いついてきた。走りながら銀さんの手が伸びてきて、もうダメだと思った瞬間、私は後ろから抱きしめられるように捕まってしまった。猛ダッシュした後のため、銀さんの荒い息遣いが耳元で聞こえ、自分の顔が熱くなるのを感じた。
「何で…………逃げるん……だよ………」
まだ息が上がっている銀さんが、顔が想像できるくらい悲しそうな声で聞いてきた。
「恥ずかしくなっちゃって…」
正直に答えると銀さんの腕の力が強くなった。私の心の中に愛おしさが溢れてくる。そして覚悟を決めて言った。
「逃げたりしてごめんなさい。わ、私も銀さんのことがす、すすすすす好きです……。」
銀さんの反応を伺うが、銀さんは何も言わない。怒らせてしまったのかと思い後ろを振り向こうとすると銀さんが私の頭を抑えて震える声で、
「今主人公として非常にまずい顔しているので見ないでください」
と言ってきたので私は可笑しくて笑ってしまった。



その後本当に道の真ん中で愛を叫ばれたのは言うまでもない。

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