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□キミ色
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最近、距離が縮まったような気がする。

ほんの少しだけど縮まった。
それがどれだけ僕を喜ばせているか貴方は知らないでしょう。


出会いは最悪で、直感的に『この人とは合わない』と思った。
けれどいつの頃からか彼の黒髪を目で追うようになって、自分の中で大きくなっていく胸の高鳴りに気づいた。

最初は認めたくなかったけど、いつしか自分に嘘をつけない程に思いは膨らんでいった。

直接「好き」なんて言葉では伝えないけど君はこの思いに気づいてくれた。
そして、それに答えてくれた。


もっともっと話したい。
もっともっと触れ合いたい。
顔を合わす度にそんな思いが沸き上がってくる。

端から見れば喧嘩にしか思えないあの言い合いも、僕らにとってはただの照れ隠し。
本当にお互い素直じゃないな、と思うと可笑しさが込み上げてくる。





「アーレンっ!!」

「わッ!?」


いきなり背後から名前を呼ばれ、驚いて振り返った。


「なーにニヤニヤしてんさ?」

「なんだ、ラビか。びっくりさせないでくださいよ!」

ここは食堂。
数秒後にまだ食事の途中だったことに気付く。
食事を忘れて考え事だなんて自分でも珍しいと思う。
その原因は全て黒髪のあの人。


「なぁ何考えてたんさ?」

「なっ、何でもないですよ…ごちそうさま!」


逃げるように食堂を後にして、そのまま大好きな人の元へ向かった。





コンコンと軽くノックをすると少しだけ扉が開かれて、そこからは黒曜石のような綺麗な瞳が覗いた。


「…モヤシか」

「モヤシじゃありません。暇だから遊びに来ました」

そう言うと特に文句も言わずに部屋の中へ入れてくれた。


少し前なら神田が他人を部屋に入れるなんて事は想像できなかった。
これは僕だけの特権。
そう思うと嬉しくて仕方ない。


「相変わらず神田の部屋は質素ですね」

「いいだろ別に」


いつ来ても必要最低限のものしか置いていなくて、それがまた彼らしくて好きだったりする。

僕はぐるりと部屋を見渡した。
しかし小さななテーブルの上に今までなかった物が置かれていることに気付く。
前に来たときは確かになかったはず。

気になって近づいてみると、そこには様々な色をした綺麗なガラス玉が透明のグラスの中で輝いていた。


「神田、これ何ですか?」


そのガラス玉の一つをつまみ上げて尋ねてみた。


「ビー玉だ」

「ビー玉?」


手にしたそれを日の光に照してみるとキラキラと美しく輝いた。


「凄く…綺麗ですね」


ビー玉…。
神田の国のものなのだろうか。


赤や青。

黄色や緑。



そのどれもが日の光を吸収して美しく輝いている。
今まで見たことのないそのガラス玉に目を奪われてしまう。




「ねぇ、神田はどの色のビー玉が好きですか?」


赤?青?
それとも黄色?


なんとなく訪ねてみたけれど、彼からは思いもよらない答えが返ってきた。




「…灰色」

「へ?」

「灰色が好きだ」


そう答えた神田の頬は心なしか紅く染まっていた。


「でも、灰色のビー玉なんてありませんよ?」


訳が解らなくて聞き返すと神田はさらに頬を染めた。


「あるだろ!ここに…」


そう言って彼が指さしたのは僕の瞳。


灰色…

ああ、なるほど。


僕の目は灰色。


今のは要するに告白。
神田は遠回しに僕のことを好きだと言ってくれたのだ。

あまりに意外であまりに嬉しくて、暫く放心状態だった。


「神田、それは…」


自分でも顔が火照っているのがわかった。
きっと目の前にいる彼に負けないくらい顔を真っ赤に染めているのだろう。


「…大好き。僕は黒が大好きです!!」


嬉しさのあまり神田を抱きしめていた。
僕からも告白。
遠回しだけど、それでもいい。
それで充分だ。


「っ…離れろ!」

「イヤですー!」


僕らは不器用で素直じゃないから思いを言葉にすることが苦手。

だけど言葉なんかよりもっと大事なものが僕らを結んでくれてるんだ。









end

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