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□桜想い
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美しい花々や木々

様々な生き物は


徐々に訪れる春の足音を耳にし


長い冬の眠りから目覚める


厳しい寒さを経て


新しい命が息吹く季節




春が


ようやく此処にもやってきた









今日は春日和。

アレンは教団の外へ出て何をするというわけでもなく、ただのんびりと森の周辺を歩いていた。


小道を少し行った所で一羽の青い鳥が滑るように追い越して行くのを見た。




"青い鳥は幸せを呼ぶ"


何処かで聞いたジンクスがふと頭に浮かび、鳥の後を何の気なしに追う。





けれど暫く追いかけていた鳥は突然視界から姿を消してしまった。


「おーい。何処行ったんだー?」


走ることが得意なアレンでも流石に鳥の飛ぶ速さには敵わない。
早くも幸せの鳥の行方を見失ってしまった。


諦めて踵を返そうとした時、一枚の花びらが頬を掠めた。

上を見上げると淡い薄桃色の花びらが何枚か風に舞って流されている。


「綺麗…」


それに見とれていると、ピチチチっという小さな鳥の囀ずりが耳に届いた。

青々と繁った木々や草を掻き分けて鳥の声がした方へ足を進めるとそこには…




「わぁ…」


目の前には薄桃色の世界が広がっていた。

森の少し開けたその場所にはピンク色の花びらをつけた木々が並んでいて、それはなんとも言えない美しさだった。


「こんな場所あったんだ…知らなかったなぁ」


すると先程の青い鳥が再びアレンの目の前を通り過ぎて行った。


「もしかして、僕を此処に案内してくれたのか?」


きっとそうだ。
そうでなければこんな場所まで辿り着けなかっただろう。

もう一度その場所をぐるりと見渡すと、中でも一際大きい木の下に小さな人影が見えた。



「誰だろう…」


気になってその木の下へ近付いて行くと、そこにいたのはアレンのよく知っている人物だった。




「…神田」


下で縛られた長く艶やかな黒髪を見れば、遠くからでもそれが誰だかわかった。
木の幹に背を預けて桜の花を見上げている。

更に近付いて行くと、神田は足音に気付いたのか此方をちらりと見た。
しかしアレンだとわかると何事も無かったかのように視線を再び桜へと移した。


アレンは神田の座っている木の下まで来ると、彼の近くに自分も腰を下ろす。


「綺麗ですね。この花の名前、なんて言うんでしょう」


「…桜だ」


神田は少し目を細めて風に舞う花びらを見つめながらそう言った。


「日本の花なんですか?」


彼の表情は何処か懐かしむような、切な気なものだった。
きっと遠い母国を思い出しているのだろう。


「誰がこんな場所に植えたんでしょうね」


「さぁな…」


森の中に突如現れた薄桃色の世界。
理由はわからないけれど、きっと遠い昔に誰かが植えたものだと思う。

そして神田はこの場所をずっと昔から知っていたのだろう。


昔から?


そう言えば神田がいつ教団に来たのか知らない。
どんな風に子供時代を過ごしたのか、どんな風に日本で暮らしていたのか何も知らない。

そして今まで見たことのない切な気な、だけど何処か幸せそうな表情。

彼の過去に何があったのだろう。




「ねぇ神田。桜のこと…日本のことを教えてください」


そして貴方のことを教えてほしい

貴方のことをもっと知りたい

だから…





桜を見上げていた神田は少しだけアレンへと目を向けた。

その時微かに微笑んだように見えたのは気のせいだろうか。


「日本は…美しい場所なんですか?」


「あぁ。とても綺麗な場所だ…」


目を瞑って静かに答える彼はいつもより優し気な顔をしていた。

それが嬉しくてもっともっと聞きたくなる。


ねぇ神田


もっと話して

僕に教えてください

誰よりも貴方のことを知りたいから…




一枚の花びらが漆黒の髪を滑るように舞い降り、風の中へ消えていった。








end

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