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□pour toujours
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任務帰り。


発車を待つ列車の中、俺とユウは二人きり。


シートに深く腰を下ろして、任務後の程よい疲れが与える心地よさに目を瞑る。


暫くして目を開けると向かいの席に座っているユウは窓越しから外の風景を眺めていた。


目の前の端整な顔を見ていると、このまま連れ去ってしまいたい衝動に駆られる。


俺達はこの列車に乗って教団へと帰って行く。
それが繰り返される日々。

いつも危険と隣り合わせ。


こうやって今、二人とも生きているのは奇跡かも知れないね。

大袈裟なんかじゃないと思う。
いつ死んでもおかしくない世界で俺達は戦っているから。


だから

こんな何でもない時間が大好き。
ユウといられる時間がとても貴重に感じるんだ。

このまま時間が止まってしまえばいいのに。

いつまでも二人で生きていたい。


不安のない場所で

悲しみのない場所で

ユウと生きていたい。


そう願う俺は我が儘なのかな…




「ねぇ、ユウ。もし戦争が終わったらさ、何がしたい?」


俺は幸せに満ち溢れる毎日を送りたい。

そしてユウの隣で笑っていたい。


「…わからない。そんなこと考えたこともない」


少し眉根を寄せて答えるユウに、憐れみにも似た感情が心の奥で揺らぐのを感じた。




そうか。

ユウは幼い頃からアクマを倒す為に生きてきた。
今もエクソシストとして生きている。
子供の頃から夢なんて無かったのだろう。
きっと夢を見る時間も与えられなかったのだ。


"お前はエクソシストとして生きるんだ"


生まれた瞬間からユウの進む道は決められていて、その通りに生きてきたんだ。


運命と言ってしまえばそこでおしまいだけど、こんなのってないと思う。


ユウに限ったことじゃない。
エクソシストはみんなそうなんだ。
彼らの夢は戦争を終わらせること。
それは最早夢を越えて責任へと姿を変えている。

ただ俺が異例なだけ。
ブックマンになる夢を、道を与えられた。

そんな俺からするとユウの今の言葉はとても悲しいものだった。




俺は君に

夢を見てほしい。

わくわくするような夢を。


…俺にできるかな?
ユウを幸せにしたいんだ。

たとえそれが自己満足だったとしてもユウに幸せを感じてほしい。




あぁ

この列車が動き出したら俺達はまたホームへと戻ってしまう。
そしてまた、危険な任務地へと旅立つんだ。


安心できる場所へ

幸せに満ちた場所へ逃げてしまいたい。




ねぇ…

ちょっとだけならいいかな?


君と夢を見るフリをする…

それだけなら許されるよね?


平和な場所へ逃げる夢を見たい。
ユウに見せたい。


エクソシストとして誇りを持っているユウは怒るかもしれないけど、戦争も何もかも忘れて逃げ出そうよ。








ベルがジリジリと鳴り響き、発車の時刻を知らせていた。

俺は立ち上がると未だ窓の外に目を向けているユウの腕を掴んだ。


「おい!何だよいきなり…」


「ユウ、ちょっとだけでいいから来て」


そのまま腕を引っ張って列車が発車する寸前にプラットホームへと飛び出した。


「どうしたんだよ急に?」


訝し気に見つめてくるユウに俺は微笑んだ。


「一緒に来てほしい所があるんさ」


その言葉にユウは一瞬ぽかんとしていた。
怒るかなって思ったけれど…




「…変なヤツ」


ユウは笑ってそう言った。

その顔があまりに綺麗で綺麗で思わず見とれてしまう。

知らなかった。
そんな顔もできるんだね。
もっとその笑顔を俺に見せてほしい。
幸せに笑ってほしい。


だから二人で逃げようよ。
誰も追いつけない遠い場所、悲しみのない場所まで走るんだ。




ユウ…


少しだけででいいから

そんな夢を一緒に見よう。


いつかその夢が叶うことを祈りながら…









end

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