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□mi corazon
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青く晴れ渡る空の下


優しい風に包まれて
一人川原の縁に座っていた


外に出て日の光に当たるのは久しぶりだ
昨日まで部屋から出ることを許されていなかった


何故なら


"記憶を無くしてしまった"から







覚えているのは


ブックマンと

自分がその継承者でありエクソシストであること


今まで記録してきた裏歴史


そして




最後に見た瓦礫と化した灰色の町と


誰かの悲しそうな声……








数日前、一人自室で本に読みふけっている時のこと

突然部屋に見知らぬ男が現れた

黒いコートに身を包んだそいつは黄金の瞳を細めて微笑み、俺に話しかけてきた



『ラビ…久しぶりだな』


見たこともないそいつは俺の名を呼んだ



『会いたかったよ』


『ラビ』


そう言って相手は近づこうとしたけれど俺はそれを拒んだ


浅黒い褐色の裸

額に浮かび上がる七つの聖痕

それが何を表しているのかわかったからだ

残った不安定な記憶は、俺にそいつが"ノア"だということを教える


『来るなっ!!』


そう叫ぶとイノセンスを握り締めた

だって相手はノア

殺されるかもしれない


そう思ったのに



そいつは悲しそうな表情をするんだ



『ラビ…ラビ!』


そいつは今にも泣いてしまいそうな顔で俺の名を呼び続けた

そして何度も『ゴメン』と言う




何で謝るの?

俺は何も知らないよ


そんな悲しい目で俺を見ないで…




訳が解らなくてどうすることもできなくて


部屋を飛び出した







次に部屋へ戻った時にはもうアイツの姿は無かった



アイツは俺の名前を知っていた

もしかして知り合いだったのかもしれない


いや、もっと心の深い部分で繋がっていたのかもしれない

自分が記憶を亡くした為に悲しい思いをさせてしまったのだとしたら…


そう考えるとズキリと胸が傷んだ


散らばった記憶の欠片はあるのに、どうしてもそれを繋ぎ合わせることができない


ほんの一瞬
愛しいような切ないような気持ちが心を支配したけれど


それはきっと気のせい




気のせいなんさ…









ふと空を見上げると真っ白な鳥が頭上を旋回していた

それは青く広がる空にとても映えていて眩しいくらい


俺は鳥に問いかける




なぁ


お前には解るか?




俺が何を忘れてしまったのか



どうしてアイツは俺の名前を知っていたのだろう


どうしてあんなに悲しい顔をしていたのだろう


どうして俺の心は苦しんでいるのだろう


俺とアイツはどんな関係だった?
どんな話をしてどんなふうに過ごした?


思い出せないのに虚しさだけが残ってる


きっと忘れてはならない大切な人だった








嗚呼


あの悲しみに満ちた表情が頭から離れない
名前を呼んで謝り続ける切ない声がまだリピートしてる


あの人は誰だったのだろう


また現れてくれるだろうか?



もしも会うことができたなら

何も言わずに抱きしめよう


もう謝らなくていいよ

もう悲しまなくていいよ




そう伝えたい









俺はもう一度右目に空を映す
同時に吸い込まれていきそうな錯覚に陥る

いっそこのまま消えてしまえればいいのに…









見上げた空はどこまでも広がっていて


涙が出るほど


青かった









end

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